▼ 3.騎士
ふと目が覚めるとエイゼンの顔があった。
すっと鼻筋のとおった精悍な顔。
もぞもぞ動いて時計を見ると4時過ぎだった。
自分の部屋に戻ろうと身体を起こそうとした時、エイゼンの手がネオンの腕を掴んだ。
「行くなよ。いてくれ」
「起きてたのか」
ネオンの腰を抱きしめる形でエイゼンは再び寝息をし始める。
こんなエイゼンをかわいいと思うのは内緒だ。
「エイゼン」
呼びかけても規則正しい呼吸音が聞こえるだけ。
開けっ放しの窓の向こう。エイゼンの部屋からはスグイの森が見える。
一度だけスグイの国へ行ったことがある。まだ子供の頃。
「あの美しい景色がなくなる」
いいのか、エイゼン。
エイゼンの寝顔を見ながら呟く。
「お前を騎士にしなけりゃよかったな」
ただ友達で良かった。
騎士にしてしまったが為にエイゼンを束縛してしまった。
エイゼンの銀の髪をかき上げる。
その時見つけた額のカギ傷。ひきったような傷。古傷の様だ。
いつも前髪を垂らしているから気付かなかった。
ネオンはそっとその傷にキスを落とした。
なんだかエイゼンが愛おしい。
この傷を見てそう思うのはなぜだろう?
友も、家族も、権利も、名前も、国籍も。
エイゼンにはない。
騎士になる為に全部捨てた。
リーナカンジャには騎士という制度がある。
何もかもを捨て「騎士」になる。
ここ数百年、リーナカンジャに“騎士”はいなかった。
あの日、スグイに観光しネオンの姿に目を奪われた日、
エイゼンは毎日ネオンに会い、120日後、騎士になっていた。
リーナカンジャの歴史からみると異例の早さだったとエイゼンがネオンの乳母から聞いたのは大分後のことだった。
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