月と太陽 | ナノ


▼ 6.騎士の礼

「腹、減った」
ぽつりと呟くエイゼンの声にネオンは昨日の夜からエイゼンは何も口にしていない事に気付いた。

「夜食を持って来させようか」
「そうだな」
「部屋に戻ろう、エイゼン」
「ネオン」
歩きかけたネオンの背にエイゼンの声。振り返るとエイゼンと目が合った。

「何?」
「俺はもう国籍はない。だからスグイの人間でもリーナカンジャの人間でもない。でも、俺はお前の騎士だ」
「……うん」
「俺はお前に従う。お前だけだ」
「わかってる」
「わかってないから言ってるんだ。お前、俺が自白したと思ってるだろう」
「……」
自白剤を打たれたら誰だって、それがエイゼンだろうと話す。それは仕方ないと思う。

「伊達に軍人だった訳じゃない。ていうか、俺の頭にはロックが掛けられてる。だから自白剤じゃ、無理だ。軍人を他の国へやるんだぜ? それくらいスグイだってするさ。だから、文書にした極秘文書を盗んだんだ。コピーだから盗まれた事すらスグイは気付いてない」
肩をすくめてエイゼンは歩き出した。

「じゃあ、どうして」
「機密事項を知ってたか、か?」
「ロックされてからあの文書を読んだからだ」
「そうか……」
納得したように頷いて、あれと首をかしげる。

「……ちょっと待って」
何だ、とエイゼンがネオンの顔を見る。

「読んだって、いつ? 自白剤打たれる前、だよな?」
「そう、自白剤打たれる前だ」
「……じゃあ」
「自白剤を打っても相手が質問しなきゃ意味がない。あの人は何も聞かなかった」
エイゼンは国王をいつも、あの人と呼んだ。

「拷問された跡……は?」
「あの人が来る前、自白剤打たれる前に6人がかりで、な。あれにはまいった。ま、後々報復はさせてもらうさ。顔は覚えてる」
「エイゼンは強いな」
「軍人だったからな」

そういう意味じゃない、言おうとする前に部屋に着いてしまう。
心が強い、と思う。



エイゼンの部屋のベッドに腰掛け、ネオンはそこから窓を見る。

「ネオン」
名を呼ばれてエイゼンを見ればネオンを見ていた。

そっとエイゼンはネオンの手をとると恭しく頭(コウベ)を垂れる。そしてネオンの手の甲に唇を押し当てた。
それは騎士の礼。

ネオンに忠誠を誓う騎士の礼、だった。エイゼンは決してネオンを裏切らない、ネオンただ1人の騎士だった。

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