最強男 | ナノ


▼ 17

「弾は黒田さんとなんで同居してるんだ?」
「あいつがおれの家に押しかけてきたんだ。元々は学校の先輩だ。千里の後輩でもある」
「黒田さんて千里より若い……?」
「2学年上。千里の2つ下」
「そんなふうにみえない……。黒田さんのほうが上に見える」
「あいつ、人を上から見るからな。だからだろ。性格悪いぜ。関わるなよ」
「言われなくても関わらない」
あまりお近づきになりたくない、と思う。


「黒田の話は置いとくとして、仁に仕事やるよ」
真面目な顔して弾が行った。

「簡単、簡単。うちのシマ内の店から上納金を受け取る。あと、情報収集。ま、お前、顔知られてないし、顔知られるまでは自分の足で稼ぎな。得意だろ、そーゆーの、元刑事さん」
にこりと綺麗な顔が笑う。

「上納金って、下っ端使って回収するわけじゃないんだ?」
「……仁、お前、下っ端だろ。素人。千里の側にいすぎて自分の立場忘れてね?」
「……」
弾の突き放した言い方に、多少仲良くなれたと思えていたからつきんと心が痛い。

仁はヤクザとはいえ、組の盃を交わしたわけでも、千里の右腕になったわけでもない。

「立場はわきまえろ。ヤクザは厳しいぜ、仁。とはいえ、上納金回収はある程度信用できる奴がするんだ。持ち逃げされるからな」

車が停まったのは、千明が血だらけに倒れていた東雲の事務所の前だった。

日立探偵事務所に行こうと思えば10分の距離。車に乗る事もない距離だ。

「ここが拠点になってんだ。結局、引越しの予定が建て替えするのみで移動はしない事になったけどな」
そこに弾の携帯が鳴る。

電話に出た弾は電話の向こうの相手をバカにするかのような口振りで答え、電話を切った。

そこで思い出す。弾は嫌みな奴だったと。人をムッとさせるような男。
それほど弾にムッっとさせられるような事がなく忘れていた。

再び車を発進させ、弾は仁に地図を渡す。

「赤ペンで囲ってるのがうちのシマ。店回って、上納金回収するから店覚えとけ」
「歌舞伎町だけじゃないんだ。銀座も?」
「ああ」
「東雲の本宅ってなんで横浜? シマって全部東京だよな」
「あ、聞いてね? 元々本宅は東京だったって」
「知らね」
「千里が組長になったと同時に東京の本宅が別宅になった。今の本宅は数年前は別宅だったんだよ。ま、逆になろうが機能的には変わんねーけど」
「どうして千里は逆に?」
「そりゃ、馴染みないからじゃね?」
「馴染みがない? 今の……」
「今の別宅な。おれらは今の本宅、横浜で育ったからな」
「そう、なの?」
「東京の屋敷に馴染みのある奴って、千早と千明くらいじゃね? ほら、おれら鎌倉の聖城だったろ。寮だし。休みは横浜に帰ってたし」
「千明や先輩は東京まで帰ってたって事?」
「ああ。ま、ね。千早と千明は聖城じゃねーけど。あの2人は聖望のほう。あっちは半寮制。自宅組もいる」

私立聖望学院。聖城の姉妹校でやはり名門男子校だ。こちらは全寮制の聖城と違い、半寮制。自宅組がいた。

千早と千明は東京の屋敷から青山にある聖望に通った。


「どうして千明と先輩だけ聖望に?」
「前組長がそうしたんだ。あとは千里に聞け。あんま、いい話でもねぇし。千鷹組長の話はまだなんだろ」
「あ、うん」
それ以降、弾は口を開かない。車の中はボリュームを下げたラジオから音楽が流れていた。

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