最強男 | ナノ


▼ 14

「今日は一緒に帰ろうな」
「方向、逆だろ。おれ今、本宅だし」
「送るよ。僕も今日は本宅に泊まるし」
にっこり微笑む黒田が黒い気がした仁だった。

「そういえば自己紹介まだだったね。黒田壱臣(カズオミ)、です」
黒田が仁に笑顔を向けるが、その笑顔の裏で何を思っているのか黒田は目は笑っていない。

何処で会ったか覚えていないのが不思議だがこの男は危険だと思った。

「で。千里、いつ来るって?」
「急遽幹部会を開くとか言ってたな。早くて夕方だろうな。圭介の落ち場所を決め、僕をナンバー2にする話し合いだ。すぐには来ないだろ」
「お前、幹部会に出なくていいのかよ、ナンバー2」
「正確にはまだナンバー2じゃない。弾こそ出ないのか」
「んー、今回関係ないし。仁の事、千里に頼まれたし?」
「ふうん?」
黒田がいるせいか会話にもなんとなく入っていけない仁はそっとその場を離れた。

簡易キッチンで3人分のコーヒーを作る。その時、仁の携帯が鳴った。
泰介からだった。

「タイさん?」
『仁、今どこ?』
「へ? 日立の事務所だけど」
『わかった。そっちに行く。千草さんに連絡してくれ。緊急事態発生ってね』
そこで通話が切れた。

「緊急事態?」
どういう緊急事態なのかわからぬまま、仁は千草に電話を掛けた。
幹部会に出ていると思われた千草は、すぐに電話に出た。

「お忙しいところすみません。泰介さんから電話がありまして――」
『泰介から? それで?』
千草の声が緊張したのがわかった。

「緊急事態発生らしいです。日立さんの事務所に来ると」
「ありがとう。私もすぐそちらに行きます」

通話を切って弾に言った。
「弾、泰介さんから緊急事態発生って。一応、千草さんに電話したけど」
「まじか。泰介どこにいるって?」
「や、ここに来るって切れたから」
「わかった。ちょっと外、見てくる」
「弾」
「仁はここにいろ」
そう言い残し弾は出ていった。

「ねぇ日下君」
黒田に呼ばれて目を向ける。
「救急箱と裁縫道具。沸騰したお湯。早くね」
何を黒田が言いだしたのかわからずきょとんとした顔をすれば、黒田は再び早くと急かした。

「あ……はい」
この事務所に裁縫道具などあるのだろうか、仁は首を傾げる。

「裁縫道具はそこの机の一番下の引き出しね」
黒田が立ち上がる。

仁はワケもわからず水を入れたヤカンを火にかける。そして救急箱と裁縫道具を出した。

「あとタオル」
「あ、はい」
ヤカンがカタカタいい始めた時、弾は帰ってきた。

「仁、手ぇかせ!」
ドアの向こう、怪我した泰介と、松井佳乃がいた。
泰介が千草の名前を出した理由がわかった。佳乃がいたから。

泰介は弾に支えられかろうじて歩いてるといった感じだ。佳乃はガタガタ震えている。
弾に手を貸し、泰介をソファーに寝せる。
そしてドアに戻る。

「佳乃さん」
びくりと佳乃は顔を上げた。

「どうぞ、入って下さい」
「じん、さん?」
「はい」
佳乃はほっとした顔をした。

「すぐ、千草さん来ますからね」
「あ……、ありがとう」
にこりと佳乃は笑ってみせた。
佳乃を椅子に座らせた。


千草は本当にすぐやってきた。肩で息をして真っ先に佳乃に駆け寄った。
その後ろから千里が顔を出した。

「千里」
千里の名を呼ぶ。返事の変わりに片手を上げた。
Lが千里の肩の上にちょこんと立っていた。

「泰介、生きてるか」
千里がソファーまで歩いて行き泰介を覗き込んだ。

「あー、なんとかね」
泰介の言葉に千里は仁にやるように泰介の髪をくしゃりと撫でた。

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