最強男 | ナノ


▼ 6

5キロメートル手前で弾の運転する車から降りた。

「ここから走るつもりか?」
「うん。毎朝毎晩、走ってるから大丈夫だよ」
「ま、じゃ本宅で待ってるわ」
「弾」
「あん?」
「珠希さんにありがとうって伝えて」
「帰ってから言えばいいだろ。今、おれと本宅にいるんだ」
「そだね」
手に持った小さな木箱を見る。

「じゃ、後でな」
車はすぐ見えなくなり、ゆっくり仁は走りだした。


脳裏に千里が浮かぶ。

千里はなぜ仁を避けたのだろう。気のせいだろうか?

違う、と仁は思う。

気のせいなら。
あれから2時間以上たった。その間に千里から電話1本あってもいい。

けれど仁の携帯に千里からの着信はない。


千里は今、何を考えているのだろう。
どこにいるのだろう。
花やしきにいるのだろうか。

残暑厳しい9月の青空を仰いだ。



仁が本宅に着いた時、表玄関に珠希がいた。

「おかえり」
スポーツドリンクを仁に渡すと仁の手にある木箱を見た。

「ああ。弾、ちゃんと渡してくれたんや」
「あ、はい」
「なんかあったら、開けてみ。うち、千歳のお迎え行ってくるわ」
「あ、俺行きますよ」
「ええよ、たまには親子させてや。あんまり母親らしい事してへんから」
「あ……。いってらっしゃい」
そこでふと疑問に思った。

「珠希さん」
「なん?」
「どうして珠希さん、本宅に住まないんですか?」
「組長が本宅を守る。うちは別宅を守らなあかんねん。組長の奥方はみんなそうしてきたんや」
「そっか。千歳がこっちにいるのは跡取りだから?」
「ちゃうよ。本宅にいるんは……、別宅に千咲おるやん? 千咲おると、千歳に影響出ちゃうんや。千咲おるとなんや、いろんなもんが見えちゃうからや」
「あー、俺と一緒ですね。だから俺、千咲に別宅に来るなって言われました」
「そうなん? 千歳も言われてる。2人供、アンテナの精度がええんやなぁ」
「かもしれないですね」
「けど、千歳の場合、血筋やから」
「血筋? 東雲ってそういう血筋なんですか?」
聞き返すと、珠希はしもた(しまった)、と呟いた。

「珠希さん?」
「今の聞かへんかった事にしといて」
「千歳、千里の子、ですよね?」
前に千里に聞いた質問だった。

「……そうや。千里の子や。千里とうちの子や」
やや間のある答え。

親というものは子供を見ているものだといった日立の言葉を思い出す。

「日立さんの子……?」
「仁。千歳は千里とうちの子や。戸籍はな」
少し困ったような珠希の顔。

「一緒にお迎え行こか、仁」
「……はい」

車は仁が運転した。


「うちと千里とくふり、あと千咲とくふりの弟しか知らへん」
窓の外を眺めながら珠希は言った。

「千歳は東雲と日立の両方の血が流れてる子なんや。東雲と日立の血が交ざった子は未来が視えてしまう、そういう力をもっちゃうんや。千咲と同じく千歳もそう。けど、表向き、千歳は千里とうちの子や。そんな力が幹部連中に見つかったら……あかん」
「なぜ?」
「その話してたらなごー(長く)なる。また機会あったらしたるわ」
言葉を切って珠希は仁のほうへ身体を向けた。

「他言無用やで、仁」
「はい」
バックミラーごしに珠希を見る。

「日立さんと誰? 珠希さん?」
「言ったやん。東雲と日立の血筋の子やって」
「じゃ、千里の従姉妹とか、義姉妹?」
「当たり。けど、誰とは言われへん。日立の相手はお腹に千歳がいる事知って、おかしなってな。……だから受精卵をうちが育てたんや」
「それって……」
「せっかく生まれて来た生命やで? みすみす殺せへんやろ?」
「うん」
「うちの子ちゃうけど、うちがお腹痛めて生んだ子や」
「……千歳の本当の母親は千歳の事って……」
「千里とうちの子やと思ってる。妊娠した事すら彼女は覚えてへん」
「……」
「千歳が生まれた時、千里がうちらの子として役所に出生届を出したんや」
「そう……なんですか。あの、日立さんは、何も?」
「なんも言わへん。けど、千歳にはよーしてくれはる。千歳はくふりの子やけど、千里もおるし、棗もおる。父親が3人おるようなもんや」
「棗さん……」
「棗がよー千歳と遊んでくれるねん。棗、あー見えて子供好きやから」
「日立さんもそう言ってました。でもお父さんなら4人じゃ? 千明にも懐いてるでしょう? 千歳」
「ああ、そやね」
曖昧に頷く珠希に仁は何か引っ掛かるものを感じたが、珠希はそれ以上口を開かなかった。

prev / next
bookmark
(6/21)

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -