最強男 | ナノ


▼ 3

作れるような他の材料がない、と圭介は言った。ピッツァでも頼むか、と圭介がチラシを出してくる。
圭介も昼飯を食べてなかった。

「食わなきゃ良かったな、仁」
「うん」


注文したピッツァが届き、圭介と弾が食べ始める。

「仁、食うか?」
「いいの?」
「食えよ。泰介も。その為にいろんなの注文したんだ」
圭介が言う。


「俺にもくれ」
そこに立っていたのは千里だった。

「千里!」
仁は立ち上がって千里の傍へ駆け寄る。

仁がピッツァを持っている手を引き寄せ千里はピッツァをかじる。

「あ」
最後に千里は仁の指を舐めていった。

「入り口で何してるんですか。入って下さい、千里」
千里の後ろから千草が顔を出す。

「ああ、悪い」
今まで仁が座っていた場所に千里が座る。仁は千里の座るソファーの肘掛けに座った。

「お前、何しに来たんだ」
「仁の顔を見に」
泰介の問いに真顔で答える千里。

「で、飯食いに。大概、冷蔵庫に何かあるだろ、ここ」
千里も弾と同じく冷蔵庫の中身を期待して来たクチだった。

「なかったからピッツァなんだよ」
弾が口を挟む。

「珍しいな」
「忙しくて買物行ってなかったので……。申し訳ありません、組長」
「俺が入院したからだろ。悪かったな」
「いえ、組長のせいでは……」
圭介が首を振る。

「今は大食らいがいますから」

すいっと圭介の目が泰介を見た。

「どうせ、ヒモだよ」
働いていない、タダ飯食らいは不貞腐れたように横を向いた。

「仕事するならくれてやるぞ」
それを聞いて泰介は身を乗り出した。

「何?」
「後で千草に聞け。千草、泰介でいいだろ」
「十分です」
少し嬉しそうに千草が頷いた。


「で、圭介。何かあるか」
「あ、はい。浅羽会と岬会で小競り合いが。大事になるようなものじゃないようです」
「そうか」
「その浅羽、最近少年を囲ってるって噂がある。ま、今のトコ、噂の域をでないけどな」
弾が圭介の報告に裏情報を付け足す。

「あと、歌舞伎町に乗り込んできた桐生だったか、歌舞伎町を仕切る奴らに目をつけられている」
「あいつらやべーよ。新参者のくせして色んなトコ荒らしてる」
「桐生? ……桐生か」
桐生の名に聞き覚えがあるのか千里はくすりと笑った。

「知ってるの?」
仁が問い掛ける。

「ああ、まぁな」
「誰?」
何気なく聞いた質問だった。千里は仁から視線を外した。

「あれ、桐生って……」
泰介が思い出したかのように口を開くと千里はすかさず遮った。

「泰介、とっとと食って出ていけ」
「ひでー」
ピッツァを頬張ると泰介が千里の言う通り立ち上がる。

「千草さん、行こう」
「はい。じゃあ、千里、泰介を連れて行きますね」
「ああ。泰介、せいぜい役にたて」
「たつよー。たちますよー。首にされちゃかなわないんでね」
そう言って泰介は千草と出て行った。

「圭介、仁を借りて行く」
「今日は返さなくていいですので。仁、また明日な」
圭介に追い出されるような形で仁は千里に付いて行く。

「千里」
「何だ」
振り返って仁を見る千里は仁を警戒しているようにもみえた。

「……なんでも、ない」
こくりと聞きたい事を仁は飲み込んだ。

「会わせてやるよ、仁」
「え」
「桐生に」
歌舞伎町の中を歩いて行く。日立探偵事務所から5分程の場所。

小さな寂れた喫茶店。
ドアを開ければテーブル席に1人の男。

「サトちゃん」
千里をサトちゃんと呼んだその男しか客はいなかった。

「おっそい」
千里はその男を無視して仁に言った。

「これが桐生だ」
ブラウンに染められた髪はゴムで括られ跳ねていた。
紫のジャケット、黒のシャツにネクタイは赤。

「なに、猫ちゃん連れてきたの」
桐生が仁を上から下まで観察したのが仁にはわかった。

「連れてくるか、ふつー。デートだぜ、デート」
「すぐ帰す」
「ま、いっか。座んなよ」
促されて椅子に座ると桐生は千里の腕を取り自分の隣に千里を座らせた。
「ダーリンはこっち」

「あの、桐生さん?」
「何?」
「千里とは」
「関係? 聞きたい?」
勝ち誇った瞳が仁を見た。

「ちーの、恋人。だからお前、2号さん」
仁は千里に視線をやる。

「冗談だよ」
クスリと桐生に笑われた。

「大阪の桐生組、組長代理。身分は若頭ってとこ。千里とは、珠希通して知り合った」
「珠希さんを?」
「で、千里があんたと目を合わせないのは、後ろめたいからだろ、千里。オレと寝た事あるから。大分前の話だから時効だ、千里」
「シン……」
「いいだろ、言ったって。……でも、オレが千里を好きなのはあの頃と変わらないぜ? ダーリン」
さりげなく桐生は仁に宣戦布告をした。

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