最強男 | ナノ


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「嫌い嫌いも好きのうち、や」
「千明が?」
「恋愛感情ちゃうよ。千明な、弾の事、すっごい気にしててな。出会った時、弾に邪険に扱われたから苦手やねん。近くには寄らへんけど遠くから見てるで」
「ふうん」
「弾が仁と仲良う喋ってはるし、仁は友達。間に入っていける思たん違う?」
「バカ、千明」
「アホや、うちに言わしたら」
珠希と顔を見合わせると、リビングに戻った。


リビングには見知らぬ青年が千草と談笑していた。

千草が仁に気が付くとソファーから立ち上がる。青年も一緒に仁の所へ歩み寄った。

「仁さん。時雨さんです」
「君が仁?」
ふわりとやわらかな風が吹いた気がした。

「はい、日下仁です」
「僕は日立時雨。君の顔が見たくて1日早いけど来てしまいました」
にこりと笑う人は、とても成人した子を持っているようには見えなかった。
大学生で通るだろう。

「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
時雨は笑顔の似合うやさしそうな人だった。


「珠希、久し振りだね」
「そやね。元気やったん?」
「うん。彩子のおかげで」
「それならええ。千里が心配しとったから」
「そっか。お見舞い行きたいね。仁、後で車出して行こうか」
「あ、はい」
仁は今日2度目のお見舞いが決定した。


「時雨さん、彩子(アヤコ)さんは?」
「あやなら別宅だよ」
日立……くふりの問いにさわやかに振り返って答えた。

「彩子さん?」
「あ、お袋だよ。名前で呼べよ。でなきゃはっ倒されるからな」

「誰がお袋ですって? お母さん、でしょう……?」
ゴゴゴ、と怒りのオーラが舞う。

「彩子さん、早かったですね。ほら、仁の前で。仁がびっくりしてるよ」
戸口に立つ彩子に時雨は寄っていった。

「あら、ごめんなさい。貴方が仁?」
彩子は仁に目をとめる。

「あ、はい」
「私がくふりの母です。彩子って呼んでね」
にこりと可憐に笑う。

「で、くふり? ちょっといらっしゃい」
扉を出ていく彩子にくふりは頭をかいて彼女の後を追いかけて行った。

「彩子さん。俺が悪かったから、謝るから――」
「問答無用」
彩子の声が聞こえる。
彩子はばさりと息子の声をさえぎった。

「彼女、日立の中じゃ最強なんだよ」
時雨は肩をすくめた。

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