▼ 17
千明と厚也の間にはものすごく大きな溝があるように感じた。それは千明と千里にも弾との間にもあるのかもしれない。
千明が変わらなければ、何も変わらないと思う。
長期戦かなと思った。
そこで携帯が鳴る。ディスプレイを見れば弾からだった。
「もしもし?」
『おれ』
オレオレ詐欺ですか、と心の中で突っ込みを入れ、どうしたのと聞いた。
『今からそっちに行く。おれ、当分そっちにいるからな』
泰介の顔が浮かぶ。逃げて来るのだろうか?
仁はくすりと笑う。
「厚のトコ行けば?」
『昼夜逆転してんだ。すれ違うだけだ。余計さびしいだろ』
「千明、いるよ?」
『……ふーん? あいつのほうがおれを避けるさ』
電話を切って千明を見れば目が合った。
「誰、今の」
「弾。来るってさ」
「……」
千明が眉を寄せた。
「仁、弾と仲いいのか」
「ふつーに友達だよ」
「友達? あいつと?」
「うん。信頼出来る奴だと思うよ」
「……」
黙る千明を横目に日立に向き直る。
「明日からよろしくお願いします」
「ああ。伝授するのは俺じゃあ、ないけどね」
「時雨さんですか?」
「千里に聞いたのか。そう、時雨さん。明日来るから」
日立時雨、さん。
どんな人なんだろう?
前組長の"日立"。
前組長の秘密を握る人物。
日立くふりの父親。
その時庭で激しくチィが吠えた。はっと我に返る。
「こぉの、クソ犬。毎回毎回吠えるんじゃねーよ!」
弾の怒鳴り声。
「不審人物じゃねーっつーの」
ぶつぶつ言いながら入ってきたのは弾と珠希だった。
「ハナ、黙らせて。千明」
珠希が困ったように言う。
吠え続けるチィの側に仁が寄ると甘えた声を出した。
チィの頭を撫でる。
「チィ、吠えちゃ駄目だよ」
「へぇ、仁に懐いてるやん」
珠希が寄って来る。
「昔、チィとは仲良かったから」
「え?」
「俺、千明とは小学校からの友達で」
「そうなんや」
「仁」
弾に呼ばれて振り向けば、ちょいちょいと指で手招き。
手招きじゃなく、指かよと招く指を掴んでやめさせる。
弾は隣の部屋に仁を誘った。
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