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「仁の事、人として好きやから言うたんや。誰にも言うた事ない。なんや、仁に言わなって思ったんや。だからって、千里と別れようとか、うちに悪いとか思わんといて。仁を好きな千里も好きなんやから。で、千里が好きな仁もうち好きなんよ」
「珠希さん……。俺、珠希さん好きですよ」
「ありがと」
珠希は軽く仁の頬にキスした。
「俺、けっこう珠希さんタイプです」
千里には内緒、そう言って仁は珠希の唇にキスを返した。
「ほんま、言われへんな。言うたところで怒られはしいひんやろうけど、機嫌悪なるやろな」
「そうだね」
頷いて笑った。
千里は、一晩ICUにいて、一般病棟に移された。
昼、千里の病室に顔を出す。
「なんか、久し振りに逢ってる気がする」
千里の顔を見るのかすごく照れくさい。
「仁」
千里が手を伸ばす。
近寄ると手を握ってくる。
「千里、あったかい」
ああ、生きてる。仁は実感する。
「……俺、死ぬ時は千里に看取られたい」
「わかった」
「先に死なないで」
「仁……。約束してやる。仁より先には死なない」
仁の瞳が涙目になっている。
「悪かったな」
千里が言った途端、ぶわっと涙が溢れた。
もう片方の手で千里は仁の涙を指で拭った。
「泣くな、仁」
「な、泣いてない」
手の甲で涙を拭う仁。
「あー。仁、泣かして何やってるん」
珠希が入ってくる。
「仁、電話やで」
はいと渡された携帯。
「……もしもし?」
『仁?』
千咲だった。
『千明ともずっと友達いたいよ、俺。だから、千里を殺さないで――。仁、千明に言ったね? それで千里の未来が見えた。仁、お前は東雲千里をそのセリフで助けたんだよ』
「それで……?」
『そのセリフで千明の心が変化したんだ。だから千里は助かった』
千里を見ると目が合った。
『それを言いたかったんだ。仁、お前は東雲のいい活性剤かもしれない。期待してるよ』
千咲はそう言うと電話を切った。
「仁て、咲ちゃんと出会ってたんやね。知らんかった」
「え、あ、なんとなく知り合いました」
「今の千咲だったのか?」
「うん」
「時間を取って紹介するつもりたったんだがな」
そう言って千里は軽く笑った。
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