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数時間後、ようやく解放され帰路についた。
風俗の一斉取り締まり。
逮捕者も何人か出た。
「センパイ、着きましたよ」
千早のマンションの前に仁は車を止めた。
「サンキュ、仁ちゃん」
にこっと笑顔を見せる。
仁はため息をついた。
「センパ〜イ、その笑顔、犯罪です。いつか部内のヤローに襲われますよ」
実際、千早とやりて〜と言ってる先輩方を仁は知っていた。
「大丈夫! 俺タチだからー」
「センパイ……」
「あはっ大丈夫なんだよ、ほんと。俺に手を出すバカいたらそれこそクビ飛ぶよ」
その時は、そのクビっていうのが会社をクビになるクビだと思ったが、身体の一部の首である事が判明するのは、大分後、仁が東雲千里に出会ってからだった。
「泊まるか? 遅いし」
時計を見ると2時過ぎていた。
「でも……」
「遠慮なしな。疲れた顔してるしな」
こつんと額を小突かれて仁は頷いた。
千早の部屋は最上階。
ワンフロアに玄関のドアが一つ。
どうぞと千早が中に招き入れる。
「高そうなマンション……」
外観も中の造りもかなり立派なところだった。
「このマンション、兄貴の持ちモン。だから住めんだ」
「へえ」
テーブルに千早がお茶を出す。
「あっスミマセン」
「風呂入るか? 24時間風呂だからすぐ入れるぞ」
「あー、入ります」
「こっち」
千早は風呂場に案内する。
「タオルはテキトーに使って」
「ハイ」
「後でパシャマ持ってくるな。あと、新しい下着、棚の右下な。んじゃ、ごゆっくり」
ここでもにっこり。
仁も笑顔を返す。
数十分後、リビングに戻った時、隣の畳の部屋に布団がしかれていた。
その布団の上で千早は静かな寝息をたてていた。
「センパイ」
声をかけるとはっと千早が目を開けた。
「……寝てた? オレも入って来る」
起き上がって仁の横をすり抜ける。
「寝てていいからな。オレが上がって来るの待つ事ないからな? 仁」
「ハイ」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そしていつの間にか仁は眠りに落ちていった。
だから千早が風呂から上がって来た事も、千早が仁の寝顔を見て微笑んだのも、知らない。
仁が刑事になって2ヶ月。
ここ1週間位、仁がおかしかった。たぶん千早以外気付いた者はいないだろう。
いつもと変わらない仁だが、なんとなく千早は違和感を感じていた。
仁の寝顔を見て少しほっとした。
健やかな寝顔がそこにある。
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