最強男 | ナノ


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千里のキスに、仁は翻弄される。
「あ……」
声が上がる。
唇が離れる。仁は上目遣いで千里を見た。
「誘ってるのか?」
「違っ」
即答すると千里に笑われた。

「今日はここで寝ろ」
「いや」
仁は与えられた部屋から見える日本庭園を眺めながら煙草を吸い、寝るのが日課になっていた。

それが今の仁には心地いい、眠りの元になっていた。

千里の肩を借りて立ち上がる。
するりと結ばれた指が解ける。

「じゃあ、俺の所に来い」
すばやく仁を担ぎ上げ、千里は自分の部屋へ向かう。
「千里さん!」
「知ってたか、仁。俺の部屋から仁が使う部屋、見えるんだ」
「そうなの?」
「仁が庭園見ながら煙草を吸って寝るのも知ってるさ」


昼間来た千里の部屋。
窓を覗けば、仁の使う部屋が見えた。
「ホントだ、見える」

千里が煙草を仁に渡した。
「いつも吸ってる煙草じゃないけどな」
それは千里が吸っている煙草の銘柄だった。

1本貰って口にくわえる。
「ライター……」
火の着いた煙草を仁のくわえる煙草の先につけた。
電気のついていない部屋に赤い1つの火。

庭園の灯りだけが入る部屋。
「俺、好きなのかもしれない。千里さんの事。……千里さんはなんで俺?」
「なんでだろうな、こいつだと思ったんだ」
「ふうん。でも珠希さんは?」
「珠希は姉貴みたいな人だな。それ以上でも以下でもない」
「愛してないの?」
「嫌いなら結婚なんてしないさ。女として愛してるかと言えばノーだ」
「千歳がかわいそうだ」
「千歳を見てかわいそうと思うか」
そう言われて仁は首を振った。

「珠希とはいわいる政略結婚だ。お互い愛して結婚したわけじゃないが、それでも俺は珠希を姉のように想ってる」
「そっか」

「千歳はヤクザとは無縁な生活をさせてやりたい」
「でも、東雲家の跡取りじゃないのか、千歳」
「今の所千歳だけだからな、子供は。けどな、世襲制じゃなくてもいいかと思ってな。千歳が跡を継ぐって言うならそれで良し、他にしたい事があるならすればいい。そう思ってる」
「継がない場合どうするの?」
「その時はその時だ。その時は千草の子がいるかもしれないし、千早の子がいるかもしれない、だろ?」

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