▼ 7
車の中。
なぜか静まりかえっていて、その沈黙が重い。
窓の外を見ながらも、千歳はうつらうつらと眠りの森に入って行きそうだった。
「千歳」
膝枕をしてあげるとスッと息を吸い込んで千歳は眠りに引き込まれていった。
「仁」
顔を横に向けると千里が仁を覗き込んでいた。
「な、に?」
「いや、お前も寝てていいぞ」
「子供じゃないよ」
「寝ないなら肩貸せ」
頭を仁の肩に乗せ、千歳と同じようにスッと息を吸い込んで、千里は目を閉じた。
千草がその光景をバックミラー越しに見て微笑んでいたのは、助手席に座る棗しか知らない。
「仁」
名前を呼ばれてはっとした。
「着いたぞ」
そう言われて外を見れば東雲本宅の前だった。
「ウソ、寝てた?」
慌てて身体を起こす。
「ん……」
千歳が身動ぐ。千里が千歳を抱き上げた。
ふと。ああ、お父さんだなと思った。
千歳を寝かせて部屋を出ると、千里が待っていた。
「千里さん」
「明日の千歳の送り迎えは千草に頼んだ」
「え、どうして」
それは今、仁の仕事だった。
「行けそうなら行ったらいい。風呂入ってこい」
「風呂? でも……」
本宅で一番下っぱな仁は、風呂は一番最後だ。
「入ってこい。夜、棗に頼む」
「あ……」
その言葉で、やるんだと仁は気付いた。
「わかった」
「仁、変わるのは、気持ちだけだ。仁自身が変わるわけじゃない。不安か?」
「少し」
「少しか、本当に」
「……」
千里は仁をぐいっと引っ張り腕の中に収めると千里は耳元で仁の名を呼んだ。
「仁」
「俺、」
何かを言い掛けて、何を言いたくて口を開いたのかわからなくなる。
「仁」
「…っ。千里さん」
呼んで、名前を。
なんだか胸の中が熱い。
「仁」
大きな掌でぽんぽんと背中を叩く千里。
「怖い」
刺青、いや龍の重さ。
ヤクザになるという重さ。
今更実感する重さ。
「俺だって怖かった。背中に虎を背負った時はな」
「千里さんが?」
「虎に捕って喰われると思った。18の時だ」
「じゅう、はち?」
「誰だって怖いんだ。何かの覚悟がなきゃ墨なんて入れない。違うか?」
「覚悟……」
こくりと唾を飲み込む。
「覚悟なんて」
でも、しなきゃいけないのだ。ヤクザの自覚をする為に。
「背負える? 俺に。2人分」
「ああ」
力強く千里は頷いた。
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