最強男 | ナノ


▼ 9

車に乗って羽柴の弁護士事務所に向かう。羽柴の事務所は霞ヶ関にある。

「千里」
「なに?」
「ちょっと調べてみました。久遠寺の若頭について。僕らは若頭っていう彼しか知らない」
「ああ」
「久遠寺克己。彼が仁と同じ高校の同級生だって知ってました?」
「……いや。ああ、斎藤が同級生だと言ってたな」
「久遠寺は周りに自分はヤクザだということを隠していたみたいですね。私達が彼を知ったのはここ4・5年前じゃないですか。彼、どうも久遠寺組長の妾の子らしいです」
「妾の子? 雲雀と同じか……」
「若頭として表に出てくるまでは茅ヶ崎のマンションで一人暮らしをしていたみたいです。……これ、千里には言いにくいんですけど、どうも彼は仁さんに想いを寄せてたと」
千里の空気が重くなっていくのが肌で感じるほどだった。

「……もしかしたら」
「千草。いい、言うな」
千草は口を閉ざす。

もしかしたら。その後に続く言葉を千里は聞きたくなかった。

「くそっ!」
自分の不甲斐なさに腹が立つ。なにが組長だと。不甲斐なさをいつも感じていた。今回は仁だ。自分の好きな相手もこの手で守れない。

仁が女じゃないっていうのは唯一の救いだと思った。男は妊娠しない。

「……千草、これが珠希じゃなくて良かったと思う。珠希だったら……、そう思うとぞっとする。そう思うのは、珠希に情はあるんだな、俺」
「つきあい自体は長いですしね」
いや、と千里は首を振る。

「長さは関係ないな。仁が傍に来てからだ。珠希をちゃんとみて接したのは。仁が来て、珠希をかわいい人だと思えた。それまで珠希が何しようが何も思わなかった。そんな俺の態度を珠希はどう思ってた? いつも何か言いたそうな顔をしてた。最近そんな顔、珠希は見せない」
「仁さんがうちに来たのは良かった事なんですよ。ずっといてもらわなきゃ。千里と珠希はこれからもっと良い関係が築けますよ」
「だといいけどな。そのためには仁は必要だ。なぁ、千草。いや、兄貴」
「何?」
仕事では千里は千草を名前で呼んだ。仕事と関係なくなると兄弟に戻る。

「俺の子、生ませていいか。珠希に」
「どうしてそんな事、聞くの?」
「珠希の事、好きだろ」
「……昔の事だよ。彼女が僕の婚約者だったときの話だよ。今は、それに千歳だって2人の子だろ」
「千歳は俺の本当の子じゃないのは兄貴だって知ってるだろ。珠希の子でもない。珠希が生みはしたけどな」
「今は佳乃がいるし。佳乃を見てる」

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