最強男 | ナノ


▼ 20

奥の部屋に行く途中で仁の足が止まる。それ以上進まなかった。
自分から黒田に近付いては行けない。
怖い。背中から恐怖がせり上がる。

理由は何だろう。わからない。


「日下君」
なかなか来ない仁を不思議に思ったのか黒田は顔を出した。立ち止まっている仁を見て笑う。

「まだ怖い? そりゃそうか。ここで話そうか」
すぐ近くの椅子に黒田は座った。

「東雲組と敵対する組の1つが久遠寺組。そこが、東雲組の数人を拉致した」
「拉致、ですか」
「そう。拉致」
「拉致されたのは、日下君もよく知る人物だよ」
顔を上げて黒田を見る。

「珠希さんと弾」
「珠希さんと、弾?」
別宅に帰ったはずの珠希と弾。

「なん、で?」
「狙いは珠希さんだろうね。前にも狙われた」
さっき千里が言ったことを思い出す。子供は流れた。梓は背中にケロイド状の火傷。
ぎゅっと目を瞑る。

「日下君の事もあちらさんが知れば狙われる可能性がある。千里の側にいるっていうのはこういう事だよ」
「覚悟は出来てます」
目を開けて黒田を見る。

「前よりいい目をするね、日下君。あの時より今の日下君のほうがいいし、好きだな」
ころころと座る事務椅子を転がし仁に近付いてくる。
下から仁を見上げて言った。

「……っ」
「何もしないよ」
少し悲しげな目が仁の瞳を覗き込む。そして逸らされた。

「ごめんなさい」
「日下君がなんで謝る?」
「わかんない、けどっ」
「仁に怖がられる様な事をしたのは僕だよ。でも、そうびくびくされるともっと怖がらせたくなる」
びくびくしたつもりはなかった。黒田にはそう見えるのだろうか。

「聞いていいですか」
「何?」
「どこで黒田さんと?」
「覚えてないなら思い出さないほうがいい。忘れとけ。覚えてないのに怖がるお前が、聞いて更に怖がられるのを見て楽しむのも一興だけどね」
「……そうですね」
聞きたかったが確かに黒田の言う通りかもと引き下がる。


そこで日立探偵事務所の電話が鳴る。

「はい、黒田」
受話器を耳にあてた途端に黒田は黙り込んだ。
受話器を置くと厳しい顔をして一点を見つめる。

「珠希さんと弾に何かあったんですか?」
「……日下君、本当にやばいかもしれないよ。珠希さんの弟が拉致られたかもしれない」
「遼さんが? 梓君は?」
「連絡取れないらしい。遼はこっちに来ることはあまりないし、梓も表だって仕事してない。あんまり顔を知られてないはずなのに」
「……久遠寺組って、大きな組なんですか?」
わりとね、と黒田は電話を奥へ押しやる。

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