しかし残念な事に、それからも毎日毎日席替えの件を頼み込んでも、却下されるだけの日々が長らく続いた。それと同時進行するように、俺の犬飼への不満も溜まっていく。

極め付けにはこんなむかつく出来事まであった。





「おい、犬飼」

「………」

「お前だけノート出てないんだけど。出してくれねぇと俺が先生に届けられないじゃん」

それは俺が日直だった日に、社会科の先生からノートを集めて持って来いと言われたことから始まった。皆は一度言えば俺の元へとノートを持ってきてくれたのだが、犬飼の馬鹿野郎だけは違った。いつになっても自主的に持ってきてくれない。
このまま犬飼のノートだけ集めず、先生に持っていくことも出来たが、…俺はそこまで悪い奴じゃない。
だから一応犬飼にも声を掛けてやった。


「ノート、出せよ」

「………」

「忘れたのか?」

「…いや、持ってる」

「それなら、早くしろよ」

帰宅部だけど、俺だって暇じゃねぇんだ。
早く帰ってあの子とメールしたいんだからっ。

ただでさえ犬飼と話すこと自体が嫌なのだ。苛々しながらノートを要求すれば、犬飼は渋々といった感じでノートを差し出してきた。



「………?」

何をそうノート一つで戸惑うことがあるのか。不思議に思いながら手渡されたノートを受け取ろうと俺も手を伸ばし、ノートを掴んだ瞬間だった。



「……っ、?!」


急に伸ばした手を犬飼に掴まれた。




バサッと音を立ててノートが床に落ちた。



「…、な、な、なにして…?」

犬飼の急な行動に驚き、声まで裏返ってしまった。
だってこいつは、こんなことをしてくるやつじゃない。必要以上に他人と喋ることも、他人に触れることも嫌っているような最低の人間だ。


それなのに、何でいきなりこんな事を…。



「い、ぬかい、離せっ」

「……猿渡」

「、…っ」


妙に熱の篭った声。
それにいつもよりも熱い視線。


「……っ!」


俺は急に犬飼という人間が怖くなって、掴まれた手を振り払い、そのままノートも何もかも置き去りにして走って逃げたのだった。




それ以来余計に犬飼が嫌いになった。





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