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「……」
以前に多少話した際に、この人たちはとても優しいという事は十分過ぎる程分かった。
だがいきなり二人の間に挟まれてしまったら、萎縮せざるを得ない。邪魔な腹の肉を押さえつけるように更に膝を抱え込ませれば、左隣からクスッと笑い声が聞こえてきた。
「いや、ごめんごめん。つい、ね?」
つい、ね?と言われてしまってもどう反応すればいいのか分からないのだが…。貶されているわけではないと思うのだが、それに似たような何かを感じる。ジトっと茶髪のお兄さんを見つめれば、再度ごめんねと言われてしまった。一体何に対しての謝罪なのか、非常に気になるところだ。
「お前がよく似てるんだとよ」
「…はい?」
そう思っていると、今度は胡座を掻いた黒髪のお兄さんがポツリと喋った。
似てる?俺が?誰に?更に頭の中がパニック状態に陥ってしまったよっ。だが黒髪のお兄さんはそれ以上の事を教える気はないのか、ボーッとバスケコートの方を眺めている。
「あの、俺って誰に似ているんですか?」
こうなったら茶髪のお兄さんに直接訊くしかない。
「ん?ああ、俺の家で飼ってる猫にそっくりなんだ」
「…ね、こ?」
「そう、猫」
するとお兄さんは二ヶ月も会えないとなると恋しいだとか、携帯も持ち込み禁止だから写メも見ることが出来なくて寂しいと、とにかくひたすらに会えない事を寂しいと談議しだした。
「…猫」
俺に似ているとなると、茶髪のお兄さんが飼っている猫の容姿が安易に想像が付く。
…きっと歩く度にタプタプと肉を揺らして歩くくらいに太っているのだろう。それはもう一分も抱っこすれば重たく感じる程に。そして顔はぶちゃいくな面に違いない。
だがその真否を本人に問うつもりはない。というか、そんな事出来るわけがない。無礼にも程がある。
でも太っている猫は需要があって可愛いと思うが、俺のような何の取り柄もないどころかマイナス面が多いような人間と比べられる彼の猫ちゃんが可哀想だ。
「きっと猫ちゃんも寂しがっていると思いますよ」
「………」
「わ、っ?!」
すると急にグシャグシャと髪の毛を掻き混ぜられた。それはまるで猫の柔らかい腹の毛を堪能する時のように。
「ああ!もうっ!」
「え、ぇっ?」
「可愛い!」
「えぇぇ?!」
今の彼には俺が愛しの猫にでも見えているのだろうか。それともコンタクトを落としてしまって視力が物凄く低下してしまったのだろうか。おそらく前者だろうが、俺のような太っているぶさいく野郎を可愛いなどと言うのは間違っていると思うのだが。
だがまだ撫でるのを止めようとしないので、俺は黒髪のお兄さんに助けを求めるようにチラリと視線を向けた。
「………」
だがそんな願いが通じるわけもなく、また彼も茶髪のお兄さんと同じように俺の髪の毛を数回撫でると、再びバスケコートへと視線を移した。
…何というか、変わった人達だ。
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