蜜空間 | ナノ

15



「い、だ…っ、ッぁ?!」

痛い…っ、凄く痛い!
一般体型の人より遥かに無駄に柔らかく無駄に有り余っているだろう俺の首周りの脂肪。そこに無残にも思い切り歯が立てられている。首を動かしたり、上半身を動かせば逃げられるのかもしれないが、少しでも動けば、このまま皮膚諸共肉すら噛み千切られそうで動こうにも動けない。

「ぁ、ひ、ぐ…ッ、ぅ」

何これ、何これ、何これ…っ!
何でこんな目に遭っているんだ俺は。人に食われる程の生意気な口を叩いてしまっただろうか。否、そんな事は絶対に無いはずだ。
この人が、…神田さんがおかしいんだ。こんなの絶対普通じゃないよっ。

「止め…て、ね…っ、かんだ、さん…っ」

恐怖で震える手で、上に跨っている神田さんの胸元を軽く叩いて止めるように説得してみるものの。全く聞く耳を持ってくれない。
というより、俺の声は神田さんの耳に届いているのだろうか。

「も…、やだ…ぁ」

この人を止める術が分からない。
監視カメラの向こう側の人達に恥を忍んで頼みます。お願いします、助けてください…っ。だがそんな心の中の懇願が叶うわけもなく、神田さんの行動は更に度が増してきた。
ガブガブと散々噛まれ続けた俺の皮膚はとうとう限界を迎えたようで、嫌な音を立てて神田さんの歯によって破かれた。痛みももちろんだが、耳元で聞こえてきた皮膚を貫かれたその音が余計に怖く感じた。

「…はっ、」

そして更に神田さんの低くて熱い吐息のような唸り声。
結論から言うに。俺はあまりの恐怖から涙腺が崩壊したのだった。

「う、え…ひ、ぃっ、ぐ、」

この恐怖体験に泣かずに耐えられる者が居るのならば見てみたいものだ。そいつこそが真の勇者だろう。

ああ、遂には溢れ出した血を啜られる音が聞こえてきた。気の所為だったら嬉しいのだが、これは気の所為でも夢でもない。…怖いよぉ、ちょっと漏らしてしまったような気がするのだが、これは気の所為だと思いたい。
いくら俺が太っていようと人間だ。豚様や牛様には味は完全に劣っているだろう。それに俺のは脂身ばかりだから絶対美味しくないよ。絶対身体に悪いよ。だから止めてください。そう神田さんに伝えられればいいけれど、口を開ければ、嗚咽と悲鳴が邪魔して声にならない。
頭はこんなにもグルグルと回転しているというのに。

「、っ…ん、ッ、ひぇっ」

そして神田さんは一頻り満足したのか、最後に溢れ出た血を啜り、チュッとやっている事とは真逆の可愛らしい音を立てて俺の首元から口を離した。

…お、終わった?
もう開放される?

「、ひぁ、っ?!」

だがそれは甘い考えだった。

最後に血の出た箇所を大きな舌でべロリと舐めたかと思うと、今度は俺の着ている服を捲し上げて、脇腹に甘噛みを繰り返してきたのだ。

…嗚呼。
今度はバラ肉が食われるようです。



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