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※高瀬Side「…高瀬、大丈夫だよ。」
雷が鳴る度に、俺は仁湖の身体を力強く抱き締める。
そんな俺に仁湖は嫌がる素振りを見せる所か、何処か嬉しそうに俺の頭を撫でてくれた。
「…まだ、怖い?」
喋らずコクリと肯定の意味で頷くと、仁湖も俺の身体を抱き締め返してくれる。きっと恐怖を紛らわしてくれているのだろう。
…ふわり、と漂ってくる仁湖のいい匂いと、仁湖の子供体温に、下半身が疼く。
…俺は仁湖の胸元に顔を埋めて、
ニヤリとほくそ笑んだ。
もちろん雷が怖いだなんて、真っ赤な嘘だ。
俺が雷如きに怯えるわけがない。
……だが、仁湖が悪いんだ。
付き合っているというのに、甘える素振りを見せるわけでもなく、俺から積極的に攻めれば逃げてしまう。
俺はもっともっと仁湖に触れたいのに、仁湖は顔を真っ赤にして拒否をする。
いつまでも初々しく純粋な反応は、可愛くて仁湖の魅力の一つだと俺は思っている。
…思っているのだが、度が過ぎれば毒でしかない。
初々しく可愛い仁湖をいつまでも見ていたいと思う反面、そんな純粋な仁湖を自分の手で汚したくもなる。
保護欲と支配欲。
仁湖と一緒に居ると、俺の本能のどちらも駆り立てられる。
欲求不満という言葉が、俺にはぴったりだ。
だからこうするしか俺は思いつかなかった…。
こうして雷が怖いフリをしていれば、仁湖に遠慮なく触れるし、抱き付ける。
鈍い仁湖は俺の邪な考えに気付かないのだから、それを利用しない手はない。
「…意外だなぁ…」
「……何がだよ?」
「高瀬が雷が苦手だってこと。」
「…変か?」
「ううん、全然変じゃない。」
それは良かった…。
こうして理由を付けて触れるのは嬉しいが、仁湖に“頼りない男”だと嫌われてしまったら、元も子もない。
俺は決してヘタレじゃねぇからな…。好きな子の前では、やはり格好付けたいものだ。
「俺は嬉しいよ。」
「…嬉しい?」
「うん。高瀬の意外な一面を見れたのも嬉しいけど、…こうして高瀬から俺を頼ってくれたの初めてだし…、凄く嬉しい。」
…そういえば、フリだとしてもこうして俺から仁湖を頼るのは初めてかもしれない。
俺は好きな子は飛び切り甘やかしてやりてぇ、性質だから。
「…俺から頼られて嬉しいのか?」
「そりゃ、そうだよ。…いつも俺高瀬に甘えてばかり居るからさ、少し心配だったんだ。」
「……心配……?」
俺は何か仁湖に心配させるようなことでもしてしまったのだろうか?
「…高瀬に甘えられるのって、凄く心地良いし嬉しいけど、…それって俺の独りよがりだろ?我侭ばかり言っていたら、高瀬に嫌われてしまわないかな…、って今日も高瀬に会う前少し思ってたんだ…。」
「……仁湖…、」
あぁー…、やべぇ…。
どうしてこうも仁湖は可愛いのだろうか…。
俺が仁湖を嫌うわけもないというのに…。そんな細かい所まで気を遣ってくる仁湖は、本当に可愛い。
「……可愛い…」
「…か、かわ…いい…?」
「好きだ。…もう一生離さねぇ…。」
俺は言葉通り、仁湖の身体を腕の中に閉じ込めるように抱き締める。
…きっと仁湖以上に好きな人なんて出来るわけがない。
例え仁湖から別れを告げられようとも、俺は一生離さないことを心に決めた。
「…お、…俺も、好きだよ。」
「仁湖…」
「例え高瀬に嫌われようとも、…俺は一生高瀬が好きだと思うから…。」
顔を真っ赤にして、はにかみながらそう言う仁湖に、俺の胸は高鳴る。
“一緒のことを考えていた…”
改めて仁湖は運命の相手なんだと実感した。
この思いは、片道通行ではないことに、嬉しさを感じる。
「…高瀬?」
「ん?」
「まだ、雷怖い?」
「………少しだけ…。」
「そっか。…じゃぁ、雷が鳴り止むまで…こうしていような。」
仁湖はそう言うと、抱きついている俺を剥がそうとはせずに、頭や背中を優しい手付きで撫でてくれる。
きっと俺は、例え雷が鳴り止んでも離れないと思う。
もう一生離さねぇって、決めたんだ。
俺は仁湖の優しい手付きに、「たまには甘えるのも悪くねぇかも…」と思いながら目を閉じて、仁湖の柔らかい感触を味わい続けたのだった…。
雨は好き。雷は大好き。そして…、仁湖は愛してる。END
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