短編集 | ナノ

 2





途中で頑なに手を繋いで来ようとした滝本龍。街中で男同士が手を繋ぐなんて事出来るわけもなく、俺は必死に抵抗した。そして苦労しながら辿り着いたのは若い男女のカップルの姿がたくさん見える大型店。



「…何か買いたい物あるか?」

「……え?えっと、」


何処か機嫌の悪そうな滝本龍。いやこれは機嫌が悪いというか、拗ねているのだろう。きっと俺が手を繋ぐことを拒否したから。……でも俺は悪くないはず。
それでも俺の行きたい所を訊ねてくれる辺り、やはりこいつはそこまで悪い奴ではないのだろう。

しかし買いたい物…。
特に何も考えてなかったから、急に訪ねられても考え付かない。


「…洋服とかかな?」

「それならこの辺り見てみるか。」

「あ、…うん。」


急に紳士的にエスコートしてくれるから、心臓に悪いよな。俺様な性格してるんだから、俺なんかのこと気にせず自分の見たい物見ればいいのに。……でもこういう所がこいつの良い所なんだろうな。

それは恥ずかしいから本人には言わないけど。
でもお礼だけは言っておこう。


「あ、あのさ…、」

「何だ?他に行きたい所あったか?」

「いや、その…違うくて…、」

「……?」

「そのさ、…連れて来てくれて、ありがとう、…ございます…」


ああ、恥ずかしい…っ。
…今考えると、滝本龍にお礼なんて言うの初めてじゃないかな?徐々に自分の頬が熱くなっていくのが分かる。恥ずかしくて上手く滝本龍の顔が見れずに、俺は俯いたまま羞恥に陥っていた。


「……お前…」

「……っ!お、俺、ちょっとトイレ行って来る…!」

「…おい…、…岬、待て!」


暫く無言が続いた後、滝本龍が口を開いた。
俺は恥ずかしくて、その言葉の先を聞く勇気がなくて思わず逃げ出してしまった。後ろから滝本龍が俺を呼び止めている声が聞こえるけど、俺は気にせずトイレに向かって走ったのだった。







*****




「…はぁ、…っ」


駄目だ。思わず逃げてしまった。
お礼の言葉を言えたまでは良かったけど、後が全然駄目じゃないか。…何で俺はこうも素直になれないんだろう。


「……馬鹿だな、俺。」

こんなにも好意を寄せられた事がないから、どういう対応を取ったらいいのかがよく分からない。俺は個室トイレに背を寄せて自分の行動を反省する。

素直じゃない。おまけに照れ隠しのため、悪態を吐いてばかり。
何も滝本龍のために行動が出来ていない。このままでは、嫌われてしまうのではないだろうか…。


「…嫌われたく、ないな…」

「……俺が岬の事嫌いになると思うか?」

「…な…?!」


独り言だったはずなのに、返事があったことにびっくりして思わず身体が震える。いつの間にか入ってきたのか、一人だった男子便所の中に滝本龍も居たのだ。



「急に走って俺の側から離れるな。…危ねぇだろうが。」


滝本龍は俺を怒らない。
それどころか、何も聞かず俺の頭をクシャクシャっと優しく撫でてくれるのだ。いつも意地悪なのに、こういう時だけ優しいとかずるい。


「……っ、」

「…岬?」

「ば、…かぁ…」


優しさに思わず泣き出してしまった俺を見て、滝本龍は少し焦っているようだ。高校生にもなって人の前で泣くとか恥ずかしくて、俺は泣き顔を見られまいと目の前の滝本龍の胸元に顔を埋めて泣き続けた。




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