▼ magnet
「部長命令よ!早く行ってきなさい!」
「……は、はい…。」
……きっとこの日から俺の運命は変わったんだ。
magnet
真央様/「不良×平凡。新規の短編作。」
「…憂鬱だ。」
俺、野々村岬(ののむら みさき)は情報部に所属している。情報部とは生徒や教師、そして学校の周辺のあらゆる情報を学校新聞に載せたり放送したりする、結構特殊な部活動だ。…とはいっても、俺は部長に無理矢理入部させられただけだが…。
先程同様、部長はいつも無理難題を俺に押し付け、自分は部室で優雅にティータイムを楽しんでいるのだ。
「……ぜ、絶対無理だって…」
そして今回は今までより一番、難題で過酷だ。
今回は断ろうとしたのだが、やはり美人な部長から命令されると嫌でもおもわず頷いてしまう。
“学校一の不良は、本当に屋上で一日を過ごしているのか調査してこい”
…というのが、今回の俺の任務。
「…行ったフリだけして、帰ろうかな…」
俺が嫌がる理由はこれだ。
1、その不良はとても強いこと
2、それも容赦なく
3、そして親はヤの付く職業だとか
「超恐ぇよ。」
今回の情報は誰得なのだろうか?
誰もこんな情報知りたくないだろうに…。
相変わらず部長は気まぐれだ。
……で、でも本当に一日を屋上で過ごしているのだろうか?噂が一人歩きしているだけで、結局のところ本当はどうなのかは誰も知らない。例え気になっても、皆自分の命が惜しいから確かめに行こうともしないし。
「ちょっとだけ、…ほんの少しだけ見て、すぐ帰ろう。」
恐怖に寒気を感じ身体を震わせながらも、俺は恐る恐る屋上のドアノブを握り、扉を開ける。
「……わ…ぁ…」
そして俺は言葉を失った。
恐怖からではない。
あまりに綺麗な光景に…。
「凄い、…綺麗。」
学校の屋上に初めて足を踏み入れた。
小学校でも中学校でも禁止されていたから知らなかったものの…、
「…夕焼けってこんなに綺麗なんだ…。」
高い屋上からだと、邪魔な建築物が視界に入らないから、綺麗な夕焼けが目に映る。
「…こんな景色を独り占めしているなんて、ずるい…。」
…と、そこで俺は自分の置かれている立場に気が付いた。
危ない、危ない。
あまりに綺麗な景色に忘れるところだった。俺は猛獣の檻に入っていることを…。
「………うーん…、」
しかし屋上を見渡してみるが、誰も居ない。
本当にただの噂だったのだろうか?
…いやでも、放課後だから居なかっただけかもしれないし…。
「…と、とりあえず部室に戻るか。」
俺は部長に言われた通り、恐怖の屋上に足を踏み入れたんだ。それだけで十分過ぎるほど、俺は頑張った。
だからきっと部長だって、俺を叱らないよな。……多分。
「……帰ろう。」
もう少しこの綺麗な眺めを味わいたかったのだが、やむを得ない。帰らないと俺の命が危ないから。
そう思い、俺はもう一度景色を見た後、名残惜しみつつも屋上のドアノブを握った。
……と、その時、
…外側からガチャリという音が聞こえてきた。
「へ…?」
何の音だ?
『ガチャリ』?
……どうしよう、嫌な予感しかしない。
「…ま、まさかな。そんなアニメみたいなことあるはず…」
俺は冷や汗を掻きながら、もう一度ドアノブを握り直し、右に捻る。
…ガチャ、…ガチャ、ガチャッ
「………っ、」
その“まさか”の事態が起きてしまった…っ。
俺が屋上から出ようとする寸前に、誰からが外側から鍵を閉めたんだ…。
「お、おい、まじかよ…?!ちょっと、おい、誰か!誰か開けてください…っ」
時間が時間だ。
もしかしたら先生が鍵を閉めたのかもしれない…。
「……携帯は、部室だし…」
俺は何度も扉を叩きながら大声を出す。
…しかし無情なことに、扉は開かない。
「……う、嘘だろ…?」
おもわず身の安全を確かめるために、ポケットの中に手を突っ込む。
「……飴玉、一個。」
しかも俺の嫌いなミント味。
友人に貰ったミント味の飴玉が一つだけ、…俺のポケットに入っていた。
prev / next