▼ 性癖
性癖
「藍崎クロ×緑間シロ/短編作品、不良×平凡、フェチ、本番なし」
…俺、緑間シロ(みどりま しろ)には、人に言えない秘密がある。
それは極度の、
「匂いフェチ」
…だということ。
単に香水の匂いや、洗濯した洋服の匂いが好きなだけじゃない。…それだけだったら、何もおかしいことではないけれど、…俺はそれだけでは物足りないのだ。
汗のにおい。
血のにおい。
あまり人が好きではない匂いに、俺の身体は興奮を覚える。
…自分が人と違うのに気付いたのはほんの一年前。
それまでは普通に、女の子のシャンプーの匂いや、香水や洗濯剤の甘い匂いが好きだった。
だけど俺はあの時、出会ってしまったのだ…。
…あの男に。
この学校や地域だけではなく、県外でもその名が通じる男。
…藍崎クロに。
校舎裏に数十人の不良達に囲まれていた藍崎クロ(あいざき くろ)。俺はそんな現場に不運ながらも居合わせていた。…藍崎も他の不良達も、俺の存在には気付いていなかったことが、不幸中の幸いだ。
…圧倒的不利な状況に居ながらも、ギラギラした捕食者の目。さながら狩りを楽しむ、肉食獣のようだった。整い過ぎている顔に、余計に恐怖を感じた。
それから数分も経たない内に、肉食獣の狩りは始まった。泣いて許しを請う不良達、…いや草食動物をお構いなしに殴る蹴る。
血と汗が混ざり合い、異様な臭いが周囲に充満する。
…恐怖を感じる以前に、
俺は藍崎クロの暴力的な様子と、血と汗の混じる臭いに、
勃起していた。
…それからクラス替えで、藍崎クロと同じクラスになってから、俺の奇行が始まった。
体育の授業に出ている藍崎クロの制服やシャツを手に取り、…そして匂いを嗅ぐ。
藍崎クロは、留年しないように出席回数ギリギリしか体育に出ないため、滅多に出来る行動ではない。
…トイレに行くと教師に言って、一人こっそり教室に戻り、藍崎クロの服を手に取り匂いを嗅ぐのだ。
止めないといけないと分かっているのだが、…止めらない。
相手は女ではなく、男。
…それなのに、何で俺はこんなにも興奮しているのだろうか?
この男臭いにおいが、酷く俺を昂らせる。
この背徳感が、余計に俺を昂らせている。
ほんの少し匂う香水と汗の匂い。
…それにトッピングされているかのような血の匂い。
……こんなことは今日で最後だと思っている反面、俺のペニスは膨らんでいく。
…もう普通のオナニーではいけなくなってしまった。
藍崎クロの匂いを嗅いで、想像しないと俺は射精出来ないのだ。
…だから、
止めたくても止められない。
駄目だと分かっているのに、
体育の授業がある度に、俺はストーカーのようなことをしてしまう。
「……っ、藍崎……、」
俺は名残惜しく、藍崎クロの制服を元通りに机の上に置き、乱れる息に混じって、制服の主の名前を呼ぶ。
「…は、…っ、ァ、藍崎……、」
「……何だ…?」
一人喘いだ言葉に、返事が返って来た。
…何で?
…ここには誰も居ないのに。
クラスの人たちは皆体育館だし。
隣のクラスの人たちは移動教室だったはず…。
…俺は、恐る恐る後ろを振り返る。
「……ひっ…?!」
…そこには、
藍崎クロが居た。
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