短編集 | ナノ

 性癖




性癖



「藍崎クロ×緑間シロ/短編作品、不良×平凡、フェチ、本番なし」





…俺、緑間シロ(みどりま しろ)には、人に言えない秘密がある。



それは極度の、


「匂いフェチ」


…だということ。



単に香水の匂いや、洗濯した洋服の匂いが好きなだけじゃない。…それだけだったら、何もおかしいことではないけれど、…俺はそれだけでは物足りないのだ。


汗のにおい。
血のにおい。


あまり人が好きではない匂いに、俺の身体は興奮を覚える。


…自分が人と違うのに気付いたのはほんの一年前。
それまでは普通に、女の子のシャンプーの匂いや、香水や洗濯剤の甘い匂いが好きだった。


だけど俺はあの時、出会ってしまったのだ…。



…あの男に。




この学校や地域だけではなく、県外でもその名が通じる男。


…藍崎クロに。




校舎裏に数十人の不良達に囲まれていた藍崎クロ(あいざき くろ)。俺はそんな現場に不運ながらも居合わせていた。…藍崎も他の不良達も、俺の存在には気付いていなかったことが、不幸中の幸いだ。

…圧倒的不利な状況に居ながらも、ギラギラした捕食者の目。さながら狩りを楽しむ、肉食獣のようだった。整い過ぎている顔に、余計に恐怖を感じた。


それから数分も経たない内に、肉食獣の狩りは始まった。泣いて許しを請う不良達、…いや草食動物をお構いなしに殴る蹴る。

血と汗が混ざり合い、異様な臭いが周囲に充満する。


…恐怖を感じる以前に、


俺は藍崎クロの暴力的な様子と、血と汗の混じる臭いに、


勃起していた。




…それからクラス替えで、藍崎クロと同じクラスになってから、俺の奇行が始まった。


体育の授業に出ている藍崎クロの制服やシャツを手に取り、…そして匂いを嗅ぐ。
藍崎クロは、留年しないように出席回数ギリギリしか体育に出ないため、滅多に出来る行動ではない。

…トイレに行くと教師に言って、一人こっそり教室に戻り、藍崎クロの服を手に取り匂いを嗅ぐのだ。


止めないといけないと分かっているのだが、…止めらない。


相手は女ではなく、男。
…それなのに、何で俺はこんなにも興奮しているのだろうか?

この男臭いにおいが、酷く俺を昂らせる。
この背徳感が、余計に俺を昂らせている。


ほんの少し匂う香水と汗の匂い。
…それにトッピングされているかのような血の匂い。


……こんなことは今日で最後だと思っている反面、俺のペニスは膨らんでいく。
…もう普通のオナニーではいけなくなってしまった。
藍崎クロの匂いを嗅いで、想像しないと俺は射精出来ないのだ。


…だから、

止めたくても止められない。


駄目だと分かっているのに、

体育の授業がある度に、俺はストーカーのようなことをしてしまう。



「……っ、藍崎……、」


俺は名残惜しく、藍崎クロの制服を元通りに机の上に置き、乱れる息に混じって、制服の主の名前を呼ぶ。



「…は、…っ、ァ、藍崎……、」


「……何だ…?」


一人喘いだ言葉に、返事が返って来た。
…何で?

…ここには誰も居ないのに。
クラスの人たちは皆体育館だし。
隣のクラスの人たちは移動教室だったはず…。


…俺は、恐る恐る後ろを振り返る。



「……ひっ…?!」


…そこには、


藍崎クロが居た。






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