短編集 | ナノ

 ワンコイン



ワンコイン


不良×美形(俺様束縛系×弱気淫乱系)/エロ中心







立石ヶ丘高校。
周囲に由緒正しいお嬢様学校や県内一の進学率を誇る学校がある他に、特に秀たる部分がある高校ではない。


だがある少年が一年前に入学して以来、それは変わった。


男性と交際経験のない奥手なお嬢様も。
良い素材を手に入れようと奮闘する企業も。
大勢の人達が彼の姿を一目でも見ようと、あわよくば声を掛けてみようと校門に集まっていた。彼の絶大な効果はそれだけではなく、今年の入学競争率は何倍にも膨れ上がったらしい。


百人見ても百人全員が目を奪われるであろう端正な顔の持ち主。津田明美(つだ あけみ)。
だが明美はその容姿を利用して高飛車に振り舞う素振りすら見せない。むしろいつも眉を下げて、ほんわかした優しげな雰囲気で皆に平等に扱う。それが余計に彼の虜になる要素でもある。だけどその事に明美自身は気付いていなかったりする。

だがそんな性格も容姿も満点な明美なのだが、何故か今まで女の噂がない。それも一度もだ。虚偽の噂すらない。
「そんな奥手な明美君も素敵!」と一部の女子が騒ぎ立てているのもまた事実。


そして。
そんな明美は二ヶ月前からこっそりとアルバイトを始めた。初めて自分で貯めた十万円が入った茶封筒を大事そうに両手で持って、ある人物の元へと向かっていた。




その人物は。


「あ、あの…っ」

「…あ?」

綺麗な生き方をしてきた明美とは正反対の生き方をしているだろう男。不知火琢磨(しらぬい たくま)。
琢磨もまた明美のように美形の分類に属しているのだが、如何せん「やんちゃ」という可愛い言葉で納まらないほどの凶暴な存在だ。最近は大人しくなっているものの、入学したての頃は暴れに暴れていた。
彼の態度が気に入らないと喧嘩を売ってくる先輩達を顔の原型が分からなくなるほど殴っては蹴るの繰り返し。正当防衛というには度が過ぎている暴行。琢磨は容認していないが、今では二年の彼がこの学校の頭だと言われている。例え他校のやんちゃな少年達が束になってでも琢磨には敵わないだろう。


いい意味で目立っている明美と。
悪い噂で目立っている琢磨。
まるで光と影のような二人なのだが今まで接点など何もなかった。


「俺、不知火に用事があって…」

「………」

「その…、少し…時間貰っていいかな?」


だからこそ光に話し掛けられた影は眉を顰めて内心驚いていた。
琢磨に話し掛けてくる奴といったら、強く危ない男に惹かれやすい女か、彼を慕っている男か、喧嘩を売ってくる男達の三択なのだ。明美はその三択には当てはまらない。


「…何の用だ?」

「その…人が居ない場所で話が出来たらな…と」

他人には一切の興味を持たない琢磨。
だがそんな彼も明美の存在くらいは知っていた。
「周りに人が集まっており、いつも情けなく眉を下げて笑っている男」という認識くらいしかないけれど。

もしかしたらこいつは意外と腕っ節の強い奴なのかと明美の体を舐め回すように見てみるのだが、何処からどう見ても、自分とは違って薄っぺらい体をしている。筋肉なんて薄くしか付いていないだろう。
それなら一体何故。いくら考えてみても琢磨には想像が付かなかった。
だがもし喧嘩なら喧嘩で、そのお綺麗な顔を悲痛に歪めてやろうと捕食者の目線を明美に向けながら、琢磨は了承の意味を込めて一度だけ頷いた。





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