あれから三週間が経った。
今は高瀬の家から俺の家へと移動している。
高瀬は休日だというのに高そうなスーツを身に付けていたりする。一方の俺はというといつも通りの普段着だ。髪も整えているそんな高瀬の手には俺の両親が好きなショートケーキとチーズケーキが入った箱がある。
「緊張してる?」
「…しないわけないだろ?」
「高瀬でも緊張したりするんだ。ふふ、ちょっと面白いかも」
「こら、…からかうな」
「ごめん、ごめん」
実はというと。
今から正式に挨拶しに行くのだ。
高瀬が俺の両親に。
「“息子さんを俺にください”、なんて言ったら、仁湖の両親はどう反応するだろうか…」
「んー、母さん高瀬の事気に入ってるし、どうだろうなぁ」
「…反対されたら結構精神的に参るだろうな」
「もし反対されたらどうする?」
柄になく弱気な高瀬に意地悪な質問をしてみれば、ギロリと睨まれてしまった。だけど、不思議と全然怖くない。
「…言っただろ」
「何?」
「反対されても諦めねぇって」
「本当?」
「当たり前だ。一生離すつもりはない」
「…うれしい、」
一度や二度の頼み込みで俺の両親がすんなり了承するとは思っていないのだろう。だがもし了承を得れたのならば、高校を卒業と同時に何処かに部屋を借りて一緒に住もうと計画している。
「一緒に暮らしたいね」
「ああ」
「そしたら別の大学に行っても、長い時間一緒に居られる」
「…ああ」
「楽しみだなぁー」
「まずは仁湖の両親から了承を得る事だな」
「大丈夫だよ。高瀬ならきっと」
「…もし今日が駄目だったら慰めろよ?」
「え?高瀬泣いちゃうの?」
「馬鹿。…ベッドの中での話だ」
「っ、な…?!」
「逆に仁湖が泣いてしまうかもな」
「へ、変態!」
さらりとスケベ親父のような事を言う高瀬に、恥ずかしくて頬が熱くなるのが分かった。そんな俺を見て高瀬はニヤリと笑う。
「仁湖、可愛い」
「う、るさいっ」
「そんな顔するから苛めたくなるんだよ」
「も、もう!行くぞ」
「ふ、…ああ」
からかわれただけなのか、それとも本気で言ったのか、分からないけれど。高瀬の緊張が解れたのなら、いいことだ。
俺は玄関の扉を開けて、ゆっくりと朝食を済ましている両親に声を掛けた。
「母さん、父さん。改めて紹介するよ。
俺の彼氏の、
“葵くん”です。」
おしまい。
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