「…ひぅ、ぅっ、ふぅ…」

「仁湖、ど、どうした？」

どうしたもこうしたもねぇよ。
全部高瀬が悪いんだ。俺が情けなく子供のように泣きじゃくってしまっているのも、…全部高瀬のせいなんだ。
俺は一ミリも悪くない。


「っ、く、ぅえ…ひっく…」

大粒の涙を流しながら、嗚咽混じりに大声を出して泣き叫ぶ俺を見て、高瀬は狼狽えている。
先程までの鬼畜ドSモードとは打って変わって、何時も通りの高瀬に戻っているようだ。

「に、仁湖、」

「煩い、っ、触るな…、」

「…仁湖…」

何時ものように優しい高瀬は、泣きじゃくる俺の背を優しい手付きで、ポンポンと撫でてくれたのだが、怒りと悲しみで我を失ってしまっている俺は、高瀬の手を勢い良く叩き落とす。

「……ぁ…」

すると高瀬の表情が、戸惑いから悲しみへと変わったのを、俺は見逃さなかった。
「悪いことをしてしまった」と思うのだが、素直ではない俺は、高瀬に謝ることが出来ずにただ俯くしか出来ない。

高瀬の悲しそうな表情が頭から離れず、涙はいつの間にか止まっていた。


「…仁湖、悪い。」

「…………」

「…俺、いつの間にか理性切れてた…」

「………っ、」

「怖かっただろ？」

「…………」

「…もうしねぇから。」

「……やだ」

「…仁湖…？」


俺も酷いことをしてしまったことを謝らなくてはいけないのに、つい意地を張ってしまって謝罪の言葉を口に出来ない。

そしてモタモタしていると、非情なことに勝手に話が進んできている。
“もうしない"？

…それは嫌だ。
思っていたことがついポロリと声に出てしまった俺に、高瀬は不思議そうに声を掛けてきた。


「…怖かった…」

「…本当に悪い。」

「で、でも、」

「……？」

「…恐怖以上に、嬉しさの方が大きかった。」

確かに何時もと雰囲気が違う高瀬は恐かった。
だけど少し意地悪な高瀬はいつも以上に恰好良かったし、俺の稚拙な愛撫で感じてくれていた高瀬の姿を見て、俺は嬉しかった。

…ただ顔射は嫌だったけど。


「仁湖、こっち向いて。」

「…へ？っわ…、」

「可愛い顔、汚して悪かった…。」

高瀬はそう言うと、濡れたタオルで、顔や首元に掛かっていた精液を優しい手付きで拭ってくれる。

「…でも、」

「え？」

「…自分のもので汚したくなるのは、男の性だろ…？」

俺も同じ男だが、その思考は理解出来ないし、あまり理解したくない。


「…もうこんなことしねぇから。」


理解出来ないし、あまり理解したくないけど…、


「…別にいいよ…」

「…仁湖？」

「たまになら、

……汚してもいいよ？」

顔に掛けられて、飲まされて泣いていた俺らしくない台詞だ。
俺の突拍子のない台詞に、高瀬は驚いているが、…何より一番驚いているのは俺自身だ。
…考える先に口から出てきた。