「…や、やばい…」
高瀬のあの鋭くてギラギラした目付きに耐え切れず、蹴りを入れて逃げてしまった俺は、自室のベッドの上で、布団を頭から被って、事の重大さに慌てている。
「俺は、…高瀬になんてことを…っ」
大好きな高瀬に思いっきり蹴りを入れてしまった…。
きっと高瀬は俺に怒っているに違いない。いくら優しい心の持ち主の高瀬だって、俺みたいな奴に蹴られれば怒ること間違いなしだ。
「…最悪、振られてしまうとか…」
…そうだ。絶対そうに違いない。
俺が高瀬と付き合えているのは、奇跡以外の何物でもない。それなのに、蹴って逃げ出すだなんて…。
俺は慌てて受信メールを確認してみる。
…だが今の所は大丈夫のようだ。新着メールを問い合わせてみても、センターにも止まっていない。
「しかし、このままだったら…、絶対高瀬に嫌われてしまう…っ」
嫌だ。それだけは絶対に避けなくては…。やっと思いが通じて恋人になれたんだ。高瀬に嫌われないように努力しないと。
そのためにはまず…、
“キス以上のこと”を知らないと。
「キスより凄いことって、一体何なんだろう…?」
俺が答えたディープキスのことじゃないんだよな?
男と女ならば、その先のことはたくさんあるかもしれないけど…、俺と高瀬は男同士だ。
男同士でキスより凄いことって出来るのか?
ゴクン…
思わず唾を飲み込んでしまった。
「ど、どんなことするんだろう…?」
キスだって、ディープキスだって、俺にとってはもう限界だ。高瀬との顔が近くなって恥ずかしいし、息が出来なくて苦しいし、…しかもディープキスとなれば高瀬の舌が入ってくる。
自分の口の中をヌルっとした舌が蠢き回るのは、何だかよく分からないけれど、背中がゾクッとして変な声が出てしまうから苦手だ。
で、でも苦手だからといって、ずっと避けていれば、それが高瀬に嫌われる一つの原因となってしまう。
キス以上のことを勉強しないと…っ。
そう決意した俺は、のそり…とベッドから下りて、パソコンの電源を入れる。
両親にも友達にも、もちろん高瀬にも訊くのが恥ずかしい俺は、文明の利器を活用することにした。
うん、そうだよな。やはりインターネットで調べたほうがきっとたくさんのことが分かるはずだ。
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