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そんな衝動を抑えているクレスツェンツのもとに、ようやく先遣隊が帰ってきた。
「村の様子はどうだ? ほかの者はどうしたのだ」
戻ってきたのは先遣隊の半数だった。彼らと一緒に発ったはずのエリーアスがいない。
嫌な予感を覚えたクレスツェンツは兵の一人に詰め寄った。
「大規模な火災と思われる跡が……すでに鎮火しておりましたが、村のすべてが灰になっております。半数が残り生存者を探しておりますが、とても……」
「とても、なんだ……」
問うておきながら、クレスツェンツはその先を言わせなかった。掴んでいた兵士の肩を突き放し、周囲が呼び止める声も聞かずに市庁舎を出る。
こんなに、こんなに近くまで来たのに。
呼んでくれたお前のために。
クレスツェンツはぼろぼろと涙をこぼしながら厩舎へ向かった。
いつでも出発できるよう、騎士たちがクレスツェンツの馬にも鞍を乗せて待機してくれている。
彼らは王妃が泣き顔も隠さずにやって来るというのに、何も訊かずに彼女を馬に乗せてくれた。
「ブレイ村へ行く」
騎士たちはただ頷いて騎乗し、王妃を先頭に彼らは街を発った。
『ユニカをクレスツェンツ様にお預けしたいと思います。何が起こっても、ただひとり生き残るであろう私の娘を――』
お前は諦めたわけではなかったのだろう?
助けを求めてきたのは、皆を救うため、小さなユニカを安全な場所へ避難させるため。
そうだろう?
クレスツェンツはずっと記憶の中にいる友人へ問い続けていた。
答えは返ってこない。
* * *
足をつけた大地は異様な熱を持っていた。陽射しに温められたのとは違う熱。
土は白く灼け、あたりには焦げくさい臭いが立ちこめている。馬が怯えるので数名の騎士に馬を任せ、しばらく村から離れていてもらうことにした。
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