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クレスツェンツが先に進むことはさすがに調査団の長が許さず、道中は常に彼らが前方の様子を確かめつつ南東へ向かうことになった。
そしてようやくブレイ村の目と鼻の先までやって来たが、クレスツェンツの一団は村へ至る途中の街でこれまでのように先遣隊の報告を待っていた。
落雷≠ェあったのはやはりこの先らしい。
クレスツェンツは落雷≠ノついての話は聞かないように、街で疫病の対処に当たった。
ここはペシラとは違い、病人の手当てをする医師や僧医も、薬も衣料も足りていなかった。
クレスツェンツは市長に命じ、公的に管理している備蓄食料庫を開かせ、持ってきた物資も惜しみなく提供した。ペシラへも伝令を飛ばし、追加の衣料と食料を手配する。
教会堂に隣接する施療院はすでに遺体の収容所と化していて、市庁舎に治療の拠点を移し、院内の遺体も出来るだけ早く街の外へ運び出すようクレスツェンツは指示を出した。
「火葬が望ましいがそれだけの燃料もない。出来るだけ深く穴を掘り埋めさせてもらうしかないだろう」
晩夏とはいえ、今年はまだ暑さが引いていかない。腐臭の漂う施療院の中を覗いた彼女は唇を噛んだ。
聖堂の床に並べられた遺体の上を蠅が飛んでいる。これでは別の疫病も発生する恐れがある。
「王妃さま、もう市庁舎へお戻りくださいませ。このようなところに長くいらしては……」
身を守る義務など棄ててきたはずなのに、クレスツェンツはやはり守られねばならなかった。棄ててきたつもりなのは彼女だけで、彼女に同行する侍女や騎士、兵士は、クレスツェンツを無事に王都へ返すことこそを使命だと思っている。
昨日、兵士が二人高熱を発し、手前の街に置いてくることになったのが一行を動揺させているのだ。だからクレスツェンツをいさめる侍女には落ち着きがない。
兵士はどうやらこの病に罹ったらしい。しかし発症のごく初期にアヒムが教えてくれた処方の通り薬を与えれば、体力もある兵士なら助かるだろう。
クレスツェンツは確信があるかのようにそう言い切って、更に歩みを進めてきた。
もう少し、あと数時間で彼のもとへ辿り着けるところまで来ている。本当は今すぐにでも馬を駆って会いに行きたいのに。
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