dear dear

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「いました。街に出てうつされてきた者がいて、そこから看病していた者が……」
「村の人口は」
「二百もいないと思いますけど」
「ならば、ブレイ村には治療の拠点になり得るような経済力などないな。大きな街道からも少し外れている。地の利もない」
 クレスツェンツは、怪訝な顔をするエリーアスに向けて畳んだ便箋を放った。危うくスープの皿に落ちかけたそれを受け止め、スプーンをくわえたまま彼はそれを開いて首を傾げる。
「ブレイ村での死者数はすでに百六十を越えている。……人が流れ込んでいるのだ。大した利点もない小さな村に」
 アヒムの手紙には、近隣の村の導師二名、僧医二名とともに、村に拠点を設け罹患者の治療にあたっていると書かれていた。高熱と発疹を抑えるのに有効な処方を見つけたのも、その治療の過程でだという。
「なぜそんな小さな村に人が集まる」
 大きな街では関門の封鎖措置がとられているため、人の出入りは厳しく制限されている。それでも罹患した者や罹患を恐れた者たちは、薬や医師を求めて都市に集まる。街へ入れない彼らが郊外でたむろし、更なる病の温床となる。
 それが疫病の流行時に見られる悪循環。
 人が集まるのは、そこになんらかの望みがあるからだ。
「罹患者たちの求めるものが村にあるのだ。だからそれほど人が集まっている」
「……ユニカ、ですか?」
 呆然と呟くエリーアスに、クレスツェンツは頷き返した。
 友人に迫る危機は、疫病だけではないかも知れない。






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