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放心したまま足を止めた友人をおいて、アヒムはさっさと教会の門を目指し行ってしまう。
雪が跳ねるのも気にせず、クレスツェンツは彼のあとを走って追いかけた。まだ歓声をあげて遊んでいる子どもたちと同じように。
心が弾んでいるのも、子どもたちと同じ。
どうでもいいとは思われていなかったんだなあ。
嬉しかった。自分は彼を追いかけてばかりだと、励まされてばかりだと思っていたから。
アヒムに渡せているものがひとつでもあるのだ。
そのことはどうしようもなく彼女の胸を高鳴らせた。
* * *
施療院へ戻ると、門前には豪奢な馬車が停まっていた。
クレスツェンツはうっと息を呑む。その馬車にはエルツェ公爵家を示す蘭の紋章が描かれていたからだ。
「兄上か……?」
「迎えにいらっしゃったのでは?」
「なんで。わたくしは別の馬車で来たのだぞ。オーラフ様とナタリエ様をそれぞれ送り届けてから帰ると言ってあったのに」
正確には、王に許しもなく言葉をかけた上に施療院へ来てくれなどと勝手な頼みごとをしたクレスツェンツに説教しようと、肩を怒らせて追いかけてきた兄の鼻先で馬車の扉を閉め、窓からそう言い捨てて王城を出てきたのであった。
怒られる心当たりは充分にある。それにしたってここまで来なくても、とクレスツェンツは顔を顰めた。
「帰りたくない……」
「泊まるなら宿坊の方へどうぞ」
「うるさいっ。帰るわ! 帰るが……」
施療院の中には兄がいるのではなかろうか。そう思うと足が前へ出ない。しかしオーラフと一緒にいるであろうナタリエを呼びに行かねばならないし……。
クレスツェンツが躊躇している間に施療院の玄関が開き、オーラフとナタリエを伴った兄が現れた。
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