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クレスツェンツが倒れてから数日後、王妃が病臥したという公式の発表があった。
不安げに顔色をくもらせる者、喜色が滲まぬように堪える者。貴族の表情はおおかたふたつに分かれた。
しかしおよそひと月後、貴族院大議会には再び大きな波紋が生まれた。
早くも政治に復帰した王妃が、先に成立させたふたつの法の適用範囲拡充を議会に諮ったからだ。
これまで王妃の提出した議案に王が口を挟んでくることはほとんどなかったのだが、今回の審議は様子が違っていた。
王は特に王妃に肩入れするふうではなかったものの、彼女や協力する臣下が提出した資料と情報の粗を次々と指摘して修正させ、結果的により早く、より多くの貴族たちを納得させる形へと導いた。
いつからか夫妻の間に漂っていた緊張もひとつ解けたように見え、何年ぶりかにふたりそろって議場を退出する姿も見られた。
王妃が臥せっている間に、何かが変わったのか、それとも元に戻ったのか。
王家の中で澱んでいたものが再び流れ始めた気配を、誰もが感じた。
それは、王の政治を若い王妃が支え、引き継ぎ、まだ幼い王子の世にも、シヴィロ王国が謳歌するこの繁栄を受け継がせてゆく予感だったのかも知れない。
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