dear dear

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 どこか誇らしげに、けれど照れくさそうにユニカは笑う。クレスツェンツの前では、この少女はこんなにも表情豊かだ。
 心の底にどんな澱(おり)を抱えていてもいい。この愛らしい笑みが彼女の本当≠ノなればいいと思う。そしてこの笑顔を、クレスツェンツやエリーアス以外にも向けられるようになって欲しい。
 そのため、にこの狭い宮殿から出てクレスツェンツとともに来て欲しいのだが……。
「ユニカ、新年に着るドレスを、街の仕立屋に作りに行ってみないか? いつもここへ職人を呼んでいるが、店で作るのも楽しいよ」
 小一時間も頑張ると手芸を一休みして、ふたりはクレスツェンツが持ってきた林檎のケーキを広げ始める。
 林檎をきれいに切り分けていたユニカは、はたとその手を止めた。
「母の代からずっと贔屓にしている店があるのだ。貸し切りにして、半日かけてユニカの好きなようにドレスを作ろう」
 ユニカは銀器を置き、困ったように笑って首を振る。
「私は新年のお祝いには出ませんもの」
「わたくしがここへ挨拶に来ても、晴れ着姿は見せてくれない?」
 クレスツェンツは頬杖をつき甘えた視線をユニカに送ってみた。けれど少女はますます困った顔をするだけだった。
「王妃さまは、こなさなくてはいけないたくさんの行事がおありだから、私のところへ来る暇もないくらいお忙しいでしょう?」
 知っているんだから、と付け加える代わりにユニカはうつむき、一度置いたフォークを拾い上げシロップでふやけた林檎を頬張る。寂しいと言ったり、駄々をこねたりはしない。
 いっそ、そんなわがままを口にしてくれたほうがクレスツェンツも嬉しいのに。
 それきり悄れてしまったユニカを前に、クレスツェンツはお茶を少し啜っただけで、ケーキは食べなかった。

     * * *

 ユニカを施療院に関わらせたい。
 その思いは日に日に強くなっていた。

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