dear dear

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 クレスツェンツは気を取り直して満面の笑みを浮かべ、侍女から受け取った天鵞絨(ビロード)張りの小箱をユニカに渡した。中には小さなエメラルドの粒がたくさん入っていて、ユニカの手許でさらさらと音を立てる。
 色も大きさも均一にそろえた最高級の宝石に感心しつつ、ユニカは真剣な目で頷いた。彼女には宝石に心躍らせた様子はなく、その眼差しはどこか職人めいている。
「素敵です。大きさもちょうどいいし。きれいなものが出来そう」
「ふふ。じゃあ、よろしく頼むよ」
 はい、と大きく頷く彼女と一緒に、クレスツェンツはテーブルについた。
 ユニカは手芸が得意だ。縫いものはさほどではないというが上手だし、刺繍もレース編みも宝石の縫いつけも、なんでも出来てしまう。ブレイ村にいたころ、服飾職人でもある村の女のもとで手伝いをしていたかららしい。
 一方クレスツェンツは、手先の器用さをクラヴィアの練習で使い果たしてしまっていたので、女の嗜みである手芸はからっきしだめだった。輿入れ前には練習もしていたのだが、夫のためにレースを編んであげられたこともない。
 夫には専属のお針子がいるので、妻が編むべき衣装用のレースには不自由していないのだが、やっぱり申し訳なく思うこともある。
 そこでクレスツェンツは、今年の夫の生まれ月に贈る品物をユニカに教わりながら作ろうと決めたのだった。品物は、夫の淡い金髪に似合うエメラルドを使った髪留めだ。
 ユニカにはこの髪留めを誰に贈るのかは言っていない。クレスツェンツが自分で使うものと思っているかも知れない。
 もし王に贈るのだと言ったら、この娘は複雑な顔をするだろうから……。それも、クレスツェンツの悩みだった。
 ユニカに指示してもらいながら、丈夫な絹糸をビーズの中に通してしっかりと編んでいく。ユニカの教え方は的確だった。何せクレスツェンツの手許でエメラルドの帯がちゃんと出来ていくのだから。
「うーん、思ったより時間がかかるな」
 しかし慣れない作業なので順調とはいかない。クレスツェンツがユニカの部屋に滞在出来るのは週に一度か二度。せいぜい午後の二、三時間だ。今日ここで髪留めを完成させるのは無理だろう。
「宿題ですね、王妃さま」
「うん? そうだな、宿題。ユニカもきちんと課題をこなしているものな。わたくしも見倣って次までには帯を作り終えてこよう。仕上げはそのとき、ユニカにお願いするよ」

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