天槍アネクドート
落ち葉かき(7)
[しおりをはさむ]



 それに反して、食事を日々の活力の源にしているエリーアスはユニカがちまちまスープをすすっているのを見たりすると心配になるのだ。ついでによく似た感じで食事をするアヒムのことも。
 ところが、今日のユニカは熱々の芋を口に放り込んでしまいそうだった。少し冷ましてから。エリーアスにそう念を押されたユニカは神妙に頷き、自分の小皿に取り分けた芋に一生懸命息を吹きかける。
 そろそろいいはず……はやる気持ちを抑えきれずに一口大の欠片を食べてみると、やはりまだユニカの舌には熱すぎた。びっくりして口をパクパクしていれば笑われるし、吐き出すことも出来ないしで、ユニカはしばしの間一人で悶えることになる。が、それも長くは続かず、熱さがおさまってくると、バターの風味と塩気に包まれた芋の甘みがじわりと口内を満たした。
 おいしい!
「……! ……!」
 とはいえまだまだ舌を動かしづらいほどの熱さなので、ユニカはおいしさを訴えるためにエリーアスの袖を引っ張るしかなかった。
「うまい? 熱い?」
 両方! と言いたかったが言葉にならなかったので、ユニカはもう片方の手でもエリーアスの袖を掴む。
「重畳、重畳」
 エリーアスも、ユニカが食べたのよりもっと大きな欠片をパクリと口に入れる。熱そうにしながらも美味しそうに咀嚼し、しみじみと溜め息をついたりなんかしてみせる。
「やっぱり働いたあとの焼き芋は最高だな」
「そういえば、落ち葉はみんな焼いちゃったの?」
「うん。燃やす以外にどうすりゃよかったんだよ」
 まさか森の中に棄てに行くわけじゃあるまい。そんなことをしてもまた北風が吹けば家の周りに戻ってきてしまうだけだ。
 エリーアスがそう言うのを聞きながら、ユニカは二つ目の芋を自分の小皿に持ってきた。さっきより冷めていてすっかり食べやすくなっている。今度は芋のほくほくした食感を楽しむ余裕もあり、思わずうっとりしてしまうほど。
 あったかいうちに養父にも食べて欲しいな。そう考えたところで彼の分を取り分けておくことを思いついたので、新しい小皿に大きいのをいくつかより分け、ユニカは満足した。
「あの落ち葉、畑にすき込んで肥料にしたいなってアヒムが言ってたのに」
「え」
 ところが、おいしさに浸っていた幸せは潮のようにさっと引き始める。
「だから集めてって」
「いや、そこまで聞いてない」
「今朝ちゃんと言ってたわよ。あんたもユニカもまだ寝ぼけまなこだったけど」
「……」
「明日も落ち葉集めかしらね〜」
 キルルがにやりと嗤いながら芋を口に放り込むその前で、ユニカとエリーアスは顔を見合わせた。
 森からは無限にも思われる落ち葉がやって来る。だからとりあえず、明日も二人は仕事に困ることがないだろう。








(20200112)

- 78 -