天槍アネクドート
落ち葉かき(6)
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「お芋を焼くため?」
「それもある」
 二人は火の傍らに腰を落ち着け、時々煙から逃れるために移動しながらも他愛のないお喋りを続けていた。そうすると当然、立ちのぼる煙をキルルが見つけないはずもなく、厨房の勝手口から肩を怒らせた彼女が飛び出てきた。
「ちょっと、何やってるのよ!」
「あーキルル、ちょうどいいところに。バター分けて。芋焼いてるから」
「はぁ?」
「そろそろ焼けると思うんだけど」
 今度はキルルに怒鳴られてもうろたえることなく、エリーアスは持っていた木切れで遠慮がちな勢いになった火の中をいじった。そして灰にまみれたまるいものをいくつも掘り出す。
「何ほんとに焼き芋してるのよ!」
「いや、一生懸命働いたあとにはおやつを食べたいなぁって。ほら、熱いうちにキルルも食おうぜ」
「どこが一生懸命なんだか」
 キルルは転がり出てきた芋をちらりと見たものの、楽しげなエリーアスからつんと顔を背けて家に戻ってしまった。
「キルル、怒っちゃった……」
 夕飯ぬき、養父に言いつける。先ほど宣告されたことを思い出したユニカは不安げにエリーアスの法衣を引っ張ったが、彼はにっと笑うだけだった。
「大丈夫だって」
 ほどなくして、大皿と布巾を持ってキルルが戻ってきてくれた。
「ここで食べちゃ行儀が悪いわ。ちゃんと中で食べて」
 エリーアスは「ほらな」と言う代わりにこっそりとウインクしてくる。ユニカは思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて、キルルから大皿を受け取った。


 エリーアスとキルルが熱々で灰まみれの芋を布巾でくるみ、器用に皮を剥いてくれる。お皿の上に戻った芋からはもうもうと湯気が立ちのぼりなんともいえない甘い香りが漂ってくるので、ユニカはテーブルにかじりつきながら口の中に溢れてきたつばを飲み込んだ。
「お芋まで勝手に持ってきて……」
「いいじゃん、これくらい」
「これは村の教会堂に納められたものなのよ」
「じゃあなおさらいいじゃん。俺も坊主なんだから食わせてもらう権利があるだろ」
 悪びれのないエリーアスにキルルは呆れていたが、そうは言いつつ、エリーアスがナイフで割った芋の上に気前よくバターの塊を落としてくれる。溶けた黄色いバターが芋のふちからたれ落ちる様子にユニカは釘付けだ。
「すごい顔だな、ユニカ」
 エリーアスが笑いながらスプーンを差し出してきた。こんなに食欲をあらわにするユニカというのも珍しいからだろう。ユニカは好き嫌いこそあまりしないものの、どちらかというと小食な子供だった。アヒムもぜんぜん健啖家ではないのでこんなものだろうと思っている節があり、ユニカが食べたいだけ食べればいいことになっている。

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