天槍のユニカ



いてはならぬ者(20)

 その周りをうろつく娘にも、よくよく見れば覚えがあった。クヴェン王子と一緒にいた気がする。リータを温室へ連れてきて何をしていたのだろう。
「フラレイ、リータが心配だわ。どうしたのか聞いてきてくれる?」
「はいっ」
 フラレイは同僚を案じてか、すぐに飛び出して行った。リータを運ぶ一行を呼び止めると、こちらを指差しながら何ごとかをティアナに尋ねている。
(こっちは見なくていいのよ)
 ユニカが隠れていると気づいた彼らは、明らかにぎょっと目を瞠ってそわつき始めた。
 ティアナが早口に何か言って、何度も頭を下げている。それからすぐにフラレイが戻って来た。
「ティアナ様が、リータのお父様に内々にご用意いただきたい品物があったそうで……ほら、シャスハト男爵は有名な豪商でしたから、それで内密にお話をしていたところ、リータが急に倒れてしまったそうです」
「倒れた?」
 あの、いつも元気があり余っていて強気な振る舞いの目立つリータが? 今日は一度も顔を合わせていなかったし、昨日も彼女は非番だったので会っていない。しかし一昨日は、いつも通りつんとした目でユニカを睨むこともあるくらい元気だったと思うのだが。
 兵士とティアナはどうしていいか分からない様子で立ち往生している。ユニカだって指示を出せるほど状況を呑み込めていないのに。
 しかしティアナからするとリータの主人はユニカなので、出くわしてしまったからには意向を伺っておきたいのだろう。
「フラレイ、リータについていってあげて。静養が必要なら陛下にもご報告しなくてはいけないし、あとで様子を教えて」
 フラレイは大きく頷いて、再びティアナ一行の許へ戻った。フラレイから事情を聞いたティアナが、ユニカの方へ向き直り深く頭を下げる。勝手に侍女を連れ出した事への詫びも含んでいるのだろう。
 たっぷりと間を置いて頭を上げた彼女は、その瞬間目を見開いた。
 それを怪訝に思う間もなく、
「きゃあっ」
 すぐ後ろにいたテリエナがユニカの隣にばたりと倒れてきた。柱廊の石床に打ち付けられる様子は、倒れたというより突き飛ばされたような。

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