天槍のユニカ



いてはならぬ者(19)

 新しく本が足されることはあまりない。王は巷(ちまた)の出版物に興味があり収集しているようだが、それらがこの図書館に収まるのはだいぶあとのことになるだろう。
 侍女達のお喋りを盗み聞きしていると、街では庶民が書いた小説や紀行文が流行っているらしい。ついでにいうとなかなか下品なものも多いようだが、それが面白いとか。
 気はひけるが、それとなくそういう本を王にねだってみようか。
 今日持ち帰る本を選び終えると、ユニカは侍女達を呼んで図書館を出た。
 陽射しがあっていつもより温かく、柱廊(コロネード)を歩いているとよい気分だ。雫を垂らして解ける氷柱が虹色に光っているのを見ると、もう少し足を伸ばして温室まで行ってみようかと思えてくる。
 心が赴くまま、ユニカはふらりと温室へ足を向けた。しばらく部屋に籠もっていたのだ。シヴィロ王国では冬にこれだけの陽射しがある日も珍しい。温まった温室で本を読みたい。
 しかし、慌てて温室へ駆け込んでいく人影が見え、ユニカは顔を顰めた。入っていったのは担架を抱えた兵士が二人と、女官と思しき娘が一人。
 近づきすぎないように、しかし温室の出入り口がよく見えるところへ移動し、ユニカは無意識のうちに柱の陰に隠れた。
 少し待つと、兵士は二人で何かを運び出してくる。何かではない、誰かだ。
 付き添っている女官は困惑気味にその周りをうろついて、運ばれる誰かに声をかけていた。
 具合を悪くして倒れたのだろうか。しかしどうして女官が温室に? 王は執務中のはずである。そのほかに温室へ立ち入れる王族などいないはずだが。
(ああ、新しいお世継ぎが来たのだったわね)
 先日、ドンジョンの門で姿を晒してしまった相手の顔を思い出し、ユニカは溜息をついた。
 彼が温室にいるのかも知れない。よいお天気だもの。到底ご一緒する気になれないので部屋へ戻ろうと思ったところへ、フラレイが耳打ちしてきた。
「ユニカ様、あれ、リータですわ」
「え?」
 もう一度柱の陰から顔を出して一行の様子を窺う。
 運ばれている者の髪色を見てはっとした。黒っぽい茶髪。桃色のドレスの裾には白や赤の花と蔓の刺繍、リータのドレスで見覚えがあった。
「一緒にいるのは、今朝リータを呼びに来たティアナですわ」

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