救療の花(16)
「ティアナ」
「はい、殿下」
こちらの娘もたいそう顔色が悪かった。落ち着いて仕事をこなすいつもの余裕がすっかり消えている。
ディルクには、エイルリヒが一方的にティアナに対して強い想いを抱いてはしゃいでいるように見えていたのだが、この侍官の鑑のような侍女も婚約者のことを想っているようだった。
微笑ましいなと思いながら、ディルクは彼女の耳許で囁いた。
「エイルリヒの容態は細かく伝えるから、ここで待つんだ。ついでにユニカを見張れ」
「――はい」
ディルクは上着を拾い上げて羽織り、部屋を出る。そして真っ直ぐにエイルリヒが運び込まれた一室へと足を向けた。
まだ、彼が助かると決まったわけではない。
しかしそれから一時間と経たない内に、エイルリヒの容態は安定に向かった。
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