天槍のユニカ



小鳥の羽ばたき(14)

「借りと言えば、もともと私の方にあったくらいだ。君はエイルリヒを助けてくれた。多少無理を言ったのも、今なら認める。その分だと思えば――」
「でしたら、もう一つ貸しを作ります」
 ディルクの言葉を強い口調で遮り、彼女は不穏に光る濃青の瞳で見つめてきた。一見して覗えるのは強い意志。しかしその奥にちらつく怯えもディルクは見逃さない。
「何をしてくれるつもりだ?」
 それには、気がつかなかったことにした。ディルクはただただ訝しげに眉根を寄せてみせる。
「私の血を――」
 思わず目を細め、笑いそうになった。ユニカが唇を引き結び、態と低めたその声が途切れる。彼女がディルクの視線から逃げたために、ディルクの目に映ったわずかな期待の色にも気づかなかったらしい。
 まるで見えない力に導かれるように、ユニカは震える声を絞り出す。
「差し上げます。ですからそれで、私のために負った矢傷を癒やしてください」






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