老女






緑月白の週、10日。
今日はお休み。


天気も良く、太陽が湖に反射して
キラキラと眩しい。



ここの所、武勇に励み、お風呂に入り
おばちゃんに勝てない毎日を繰り返している。


グレオニ―には、次の日に謝罪されたけど、
もっと砕けてくれよ!と修造ばりに言っても、丁寧語のままだった。
ちぇ。


グレオニ―と友達って何か気安くて良いと思うんだけどなぁー。
まあ、差し迫ったことでも無いから、
機会があればと、外に出る。



たまには門まで行ってみようかな。



結構、距離があるから
いつも使っている鍛練場までの道と、お風呂場までの道以外も
覚えないと、と辺りをキョロキョロ見て回る。



あ。珍しい。王座の間に
リリアノもタナッセもいない。



……あの椅子に座れば召喚されたりするんだろうか。
赤い絨毯の先にある一段高い場所。
そこに鎮座する王座。


うーん。今は良いかな。


思いながら、椅子の近くまで来てみる。
王座は、使いこまれた革で出来ていて、年を経たものだけが
得る威厳のようなものが発されてる気がする。


思わず、ごくりと喉が鳴った。
座ってみたい。


「…………いや、ダメだろ」


王座の魔力に逆らうように
目をそらし、天井を見上げた。



金色で出来た王座の間。
煌びやかで華やかな空間は、数多くのシャンデリアが天を照らす。
ぼうっと、浮かびあがる絵。


王座から見える、歴代の王様たち。


初代ルラント。
2代目、ノイラント。
3代目、ファジル。
4代目、ネセレ。


そして、その後にリリアノが飾られるのだろう。

……それは、少し怖いような気がする。





「お初にお目にかかります、候補者様」


穏やかな声がした。
天井から目線を下に戻すと、白い髪を綺麗に編み込んだ老女が佇んでいる。
服装からして侍従だと分かる。


……ん? あれ? 
侍従の格好した老女?


それってどっかで……。


思って、記憶を探る。
ゲームの内容を忘れないように忘れないようにと
この14年、何度も思い描いたストーリーを繰り返すように。


リリアノを助ける為に必要なことだったような気がする。
そこまで思い出してから、はっと気づく。


「……ああ!」


そっか。そういえば、ここで老女に合わないといけな……。


「ど、どうされました?」


あ、まずった。
どうしよう。


「い、いえ。何でも無いんです」


交渉力ゼロな答えを言って誤魔化してみる。
彼女は、しばらく不思議そうに見つめていたけど、何でも無いと思ったようだ。


微笑みをたたえたまま、静かな足取りで近づいて来る。


一段高い王座の側に、私と老女の二人だけ。
穏やかな表情をした彼女に見つめられると、不思議な気持ちになる。


「王座は貴方にとって、それほど興味深いものですか?
神がそこへと貴方を導いていらっしゃいますか?」



神。

この世界で神といえば、アネキウスだけだろう。


神に導かれたかどうかは分からない。
末だその神様にお会いしたことも無いし、声を聞いた覚えも無い。


王座は、興味があった。
ただ、それは座ったらどんな気持ちだろうという好奇心だけ。
王になるかならないかと言えば……自信が無い。



王座の間で王座を見つめたのは
あまりに軽い理由。

神に導かれたわけでも、王座に固執するわけでもない。


だから、私は、老女の答えを要求してはいないであろう言葉に、首を振った。
それに少しだけ微笑んで、彼女は言葉を紡ぐ。


「私はこれまで三人の王をこの目で見てまいりました。
四人目も、少しなりとも見られそうですね」


ふふっと笑う。
綺麗な人だ。顔形、姿では無く。その雰囲気が。
こんな彼女に、彼の人も癒された日があったんじゃないかな。

そうであれば良いな、と思う。



「彼らのお話を聞かせてさしあげることができましょう。
……貴方がお望みでしたら」


では、今すぐに……そう告げようとして、
カタカタと、遠くから誰かがやってくる気配を感じた。


老女は、それに気付いたのか、瞬きして言葉を続ける。



「では、ただ二人きりで会える時が出来ましたら、
その時にまた。
お待ちしております」


そっと軽く会釈をし、彼女は緩やかにその場を立ち去る。
掃除用具を抱えて入ってきた若い使用人と入れ違う様に、
彼女は王座の間を出ていった。





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