夢
甘い花のような香りがする。 どこだったか。 どこかで嗅いだような気がする。
「ご機嫌いかがかしら?」
はっと気づけば、目の前に女の人が立っていた。 綺麗な人だ。 白い指先、赤い口元。すらりとした美人だと思う。
思うのに何でだろう。 現実感の無いように感じた。
「あの、ここは?」
呟いて、自分の立っている場所を見回す。 おかしな話だ。 まず、最初にしそうなものなのにしないことも。
目の前の女性の気配が、人では無いように感じることも。
真っ白な、何もない空間。 四角の角があるから、部屋の中だとは思うのに、 それもまた違うように感じる。
「人の王の子」
歌う様に彼女は形の良い唇を開く。
ひとのおうのこ。 そう喋りかけるのは、あのゲームでは……。 思い出そうとするのに、もやがかかったように思い出せない。
「輪廻を外れ、現れし御霊。 人の王の子、あなたは何をする?」
綺麗な声。 響く鐘の音のように、澄み渡る彼女の声に、私は導かれるように 口を開く。
「リリアノを、助けたい。 ……ヴァイルや、タナッセを悲しませたくない」
何が彼らの救いか。そんなものは分からない。 私の勝手な判断だ。 リリアノは、自ら運命に身をまかせようとしている。 それは彼女の自由のはずだ。
それでも、知っている私が動けば、変わる未来があるなら、変えたい。
思っているだけのことは分からないはずなのに、 目の前の女性は、それすら分かるかのように聞いてくる。
「そう。 それで、あなたの運命が変わろうとも それをなすのかしら」
「……運命が、変わる?」
答えを求めて彼女に問えば、ふふふっと笑われる。
「あなたが、リリアノの死の運命を変えれば あなたが死ぬかもしれない」
「…………」
思いもかけない言葉に、目を瞬いていると 白い指が私の頬を撫でた。
「末だ判断はつかないかしら。 ふふふ、それも良いわ」
くるりと彼女がその場で一転した。 ふわりと何かが彼女を覆う。
シャラシャラと装飾品の音だけが、空間に響き、 白い部屋に私一人残される。
「では、また……」
美しい声がかけられ、私の意識はゆったりと白に溶けていった。
Back next
|