主日神殿
朝食はお魚だった。
湖で取れたとローニカが用意してくれた魚は、 ぷりぷりとしていて美味しい。
ただ、お魚にパンは辛いと思う。 お米が恋しい……。
お野菜のたっぷり入ったスープを飲み干し、 広間を後にする。
ローニカの案内に従って、神殿に向かう。 今日は、白の月黒の週10日。
最初の礼拝をする日だ。
「今までもそうでいらしたように、十日、主日には正式な 礼拝がございます。 具合が悪い時などを除き、ご出席ください」
ローニカの言葉に曖昧に頷く。 私の顔は苦笑いだったと思う。 ローニカが仕方が無いなと言った様子で微笑んだ。
……正直、めんどくさい。
そんな思いをしつつも、行かない訳にも行かない。 主日には、正式な礼拝に出るのがこの世界の人々の習慣なのだから。
郷に入れば郷に従え。
末だに、ちょいちょい日本の習慣が抜けない私が言うのも何だけど。 アネキウスも変なことをするもんだ。 日本の記憶を消して、新たな人として産めばこんなおかしな感覚も なかっただろうに。
まあ、いきなり今日からアンタ寵愛者ですって 言われるよりは、14年前に分かってて 覚悟決めれたから良いんだけども。
ローニカの背後でゆっくり歩いていると、目的地についたらしい。 少し足を速めて近づく。
あ。細かい細工。 職人技って、すごいなぁ。
ぼーっとでかい門柱を見つめていると ローニカが神殿の扉に手を掛け、私を招き入れる。
「我らが守護者、大いなるアネキウスは天頂にいましまし、 我らを見守りたもうなり。 地より魔溢れども、その腕は全てに届き、その力は 全てを封じたり。 いざ讃えよや、歌えよや、神の名を」
沢山の声が響く神殿内。 こっそりと混ざるはずが、こちらに気づいた数人が こそこそと噂しているのが分かる。
気になるのは分かる。 チラチラ見るのは仕方ない。
でも、パッとしないとか言った奴誰だ。 これから良くなるんだよ!悪かったなぶさいくで。 言った奴は、5ヶ月後、校舎裏来いよこのやろう。
ぺちぺちと頬を隠しながら歩いていると、 ヴァイルが嬉しそうに手を振っている。
「あ、来た来た来た、こっちこっち! こっち来いよー、おーい!」
ひょこんっと跳ねた緑髪が、妙に愛らしい。 それに笑って、いそいそと彼に近づく。
大きな目だ。
男性になっても格好良いけど、 女性であっても似合うんだもんなぁ。
ちょっとずるい。
「ヴァイルは綺麗だねぇ」
「ふえ?」
マジマジと見つめて言えば、何を言われたんだろうとばかりに 変な声が聞こえた。 あ、まずった。声に出しちゃった。
「イエ、ナンデモナイデス。キニシナイデ」
両手で顔が見えないように掌をヴァイル側に見せる。 パチパチと何度か瞬いていた緑眼は、あはっと笑う。
「あんたって変な奴だなー。ま、良いけど」
褒め言葉だと取ったのか、楽しそうに笑う。 ひひひっと言う声は悪戯をした子どものようだ。 それにニヒッと笑い返して、彼の隣に座る。
「つまんないよなー、礼拝なんてさぁ。 せっかく一日自由な日なのに!」
頬を膨らませて、うんざりした様子のヴァイル。 14歳とは思えない幼さは微笑ましい。
「っと、伯母さんに聞かれたらまたお説教だよ。 あんたもさ、怒られる時は一応神妙な顔だけしとけよ。 あとは聞き流せ」
くるくると変わる表情で、神妙な顔をしたかと思えば ふうっと気を抜いてニヒルに笑う。
「じゃ、俺寝るから後よろしく」
カクンっと、器用に椅子の背もたれに寄りかかって寝始めた。
微妙に寝心地が悪いのか、首を時折動かすので、さわさわと 彼の髪の毛が当たってくすぐったい。
んー。 こっちの方が、椅子よりはマシだよね。
そう思って、左横にいる彼の体を軽くこちらに引っ張る。
ポスッ。
何の抵抗感も無く、ヴァイルの頭は、私の肩に乗った。 左肩が温かい。
まあ、いくらヴァイルとはいえ、人の頭だ。 ちょっと重たい。
でも、朝の電車ラッシュでおっさんに寄りかかられるよりは楽だ。 お父さんはお疲れさんですね、と1時間近く我慢しきった記憶もある。
ヴァイルは可愛い子ちゃんだから、 むしろ役得な気分で一杯です。ありがとうアネキウス!
人生って素晴らしい。 産まれてきたことに感謝を!
ヴァイルは、少しだけ違和感を感じたのか目を軽く開けたけど、 チラリと私を見て、 特に問題はないと思ったらしい。
ぐーぐーと寝始めた。
し、静かにね。 一応、神殿で読み上げてるんだからね!
思いながら、緑髪を軽く梳いてあげると ヴァイルが嬉しそうに微笑んだ様に見えた。
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