A promise with you | ナノ

死なない約束


今回の目的である『SAD』が破壊され、シーザーもルフィに倒された。ナミ達は子供達や海軍と共にR棟から出ようと突き進む。
シアンの治療は今やれる事は全部終わり、チョッパー達も脱出の為に走り出していた。


「急げ!! 急げ!!」

「モチャ、シアン、頑張れ!!」

「うん!チョッパーちゃんは大丈夫!?」

「おれは大丈夫だ!!」


ガラガラと天井が崩れてゆく。すると突然ウソップの声が聞こえてきた。ウソップはチョッパーの進む方向に指示を出していき、チョッパーは戸惑いながらも頷く。


「あーっ!! チョッパーさーん!!」

「えっ!? ブルック〜〜!!」


突然走り寄ってきたのは死のガスをくらい死んでしまった錦えもんを抱えたブルックだ。ブルックが言うには、錦えもんは自身の息子であるモモの助の目撃情報をゲットし、来た道を引き返そうとガスの中を突っ込んでいったそう。


「えっ!? なぜシアンさんが!? 誰かにヤられて!!?」

「違う!! 話せば長くなるんだけど…、とりあえずこっから脱出しよう!!」


それからウソップの指示通りに進んで行き、見事出口に到着。外には既にルフィ達が待ち伏せていた。


「来た!!!」


ルフィはチョッパー達の姿を見てホッと息を吐く。漸く全員揃い、用意していたトロッコはやっと発車した。


「シアン!!? どうしたんだ!?」

「る、ルフィ〜〜!! おれ、おれっ、ごめんなァ〜!!!」

「シアン、子供達を助ける為に覚醒剤の入ったキャンディを全部食べたの!! それから血を吐いて…チョッパーに治療してもらってたの」


ぐすぐすと泣くチョッパーに変わってナミが説明する。その話を聞いたルフィは眉間に皺を寄せて未だ眠っているシアンに近づいた。


「シアン起きろ!!」

「る、ルフィ!? あんた話聞いてた!?」

「起きろ!! おれだ、ルフィだ!!」

「ちょっと、ルフィ!!!」


ぺしぺしとシアンの頬を叩くルフィにナミもチョッパーも焦る。側でナミの話を一緒に聞いていたゾロやサンジ達も慌ててルフィを止めようとするが、それよりもシアンが目を覚ます方が先だった。


「、……る、ふぃ…?」

「おう!大丈夫か?痛ェとこはねェか?」

「ん…チョッパーが、治療してくれたから……」

「……そっか!もう全部終わったぞ!! あのな、トラ男とは同盟組んだんだ。シーザーもぶっ飛ばした。船に帰るぞ!!」

「…うん……また、話聞かせてね…」

「おう!!!」


それっきりシアンは何も言わず、自然と眠りについた。穏やかなシアンの寝息はトロッコの音で掻き消されるが、誰一人その空気を壊そうとしなかった。


「刀も無事にあったみたいね」

「シアン、これ子供の頃から持ってたからなァ……宝物だって言ってた」

「へぇ……名刀か?」

「知らねェ!シャンクスから貰ったものだって言ってたぞ」

「あの赤髪から!? アンタと言いシアンと言い…なんなの!?」

「何がだ?」

「もういいわ!!」


それから、ドフラミンゴの部下であるベビー5とバッファローをウソップとナミが仕留め、シーザーも無事に捕まえた。
錦えもんも死んではおらず、息子のモモの助と感動の再会を果たしていた。


「ロー!! お前、一体子供達とシアンに何をしたァ!! あいつらにもしもの事があったらお前ェ!!!」

「………。――だから覗くなと言ったろう。――今、ガキ共と剣聖屋の体を切り刻んできた……!!」

「ギャーーー!!」


手術室から出てきたローに噛み付くチョッパー。覚醒剤という薬に薬漬けにされていた子供達、それと一気に大量摂取してしまったシアンをローに預けていたのだ。だが、その治療方法に問題がある。とてもじゃないが『切り刻んできた』と言われて平静でいられるほど、チョッパーは大人しくない。


「覚醒剤だ。……辛い長期治療は避けられねェがな。剣聖屋は幸い摂取は大量とは言え一度、しかも時間もそんなに経ってねェ。依存症にはなってない筈だ。暫くアルコール類から遠ざけていればすぐに治る」


ローの医者らしい言葉を聞きながら、チョッパーは中に入っていく。涙目のチョッパーを迎えてくれたのは、もうすっかり元気になった子供達だった。
その笑顔にチョッパーも笑い、寝台に眠るシアンを見やる。ローの荒い治療のお陰が、もう顔色もすっかり元通りだ。


「よかった……」


そんなこんなで、サンジの手料理から始まった宴。もう海軍やら海賊やらの境界線など関係ない、無礼講だ。

シアンも目を覚ましたが、いきなり騒がしい所に行っては頭に響くだろうから、と輪から離れた所でスープを啜っていた。


「美味しい…」


温かいスープが体に染み渡る。
ふぅ、と一息ついたシアンは遠くからでも聞こえるルフィとローの話に耳を傾けた。

同盟を組んだ事、四皇の一人“百獣のカイドウ”を倒す事、そのためにまずは《ドレスローザ》という国へ向かう事。

沢山の話が出てきたが、だいたい掴めた内容にシアンはもうそれ以上聞かず、スープを飲む事に集中した。


「シアン!」

「ルフィ?どうしたの?」

「説教しに来た!」


両手に肉を持ったルフィだが、その顔は見るからに怒っている。説教ならせめて肉を置いてこいと思ったシアンだが、余計なことを言えば更に怒られると口を閉ざした。


「お前、死ぬつもりだったのか」

「そんな訳ないでしょ。あの時はああするのが最善だと思ったの」

「でもお前、チョッパーとトラ男が診てくれなきゃ死んでたかもしれねェんだぞ!!」


びくり、とルフィの怒鳴り声に肩を揺らす。そっとルフィを見れば、その顔は帽子に隠れて見えなかった。


「勝手に死ぬな…シアン……!!」


震えるルフィの肩にそっと触れ、ぎゅっと抱きしめる。いつの間に肉を食べ終えたのか、ルフィの手には骨しかなかった。


「…うん。……死なないよ、約束したからね」


少しでも、ルフィの――兄の不安が消えますように。
そう願ったシアンは、ルフィの震えが止まるまでずっと抱きしめていたのだった。








無事に子供達の乗った船は出航し、そのすぐ後にサニー号も出航した。


「ナミー!! どこだっけ、今から行く場所」

「“ドレスローザ”っていう場所。このまん中の指針をまっすぐ進まず、遠回りに辿れってトラ男君が」

「ド…ドレスローザ!?」


驚いた声を上げたのは錦えもんだ。未だチョッパーに「大丈夫か?痛い所はないか?」と心配されているシアンは、みかんの木にもたれかかりながら話を聞く。


「知ってんのか?」

「せ…拙者達…いや、拙者が行きたい島というのはまさにそこでござる!! おぬしらもそこに用が!?」

「うん、たぶんな!トラ男!さっき誰と喋ってたんだ!?」

「ドフラミンゴだ」


久しぶりに聞いたその名前にシアンはピクリと反応する。不気味な笑みを浮かべながら何かと自分に構ってきたドフラミンゴに、シアンは苦手意識を持っていた。


「シアン!!」

「うわぁ!何!?」

「作戦だ!! こっちに来いよ!!」

「うん!」


ルフィに呼ばれて側に行く。チョッパーはシーザーの治療に行くようだ。
自然とルフィの隣に座ったシアンを見て、ルフィは安心したように笑った。


「同盟を組んで『四皇』を倒す!!?」


「『四皇』か!いいなそれ」

「よくねェよ!!」


ウソップのツッコミが炸裂するが、もう決まってしまった話。どれだけ反対してもルフィが決めた以上覆る事は決してないのだ。


「剣聖屋、」

「ん?」

「お前は知ってる筈だ。“ジョーカー”がドフラミンゴだという事を」


突然振られたそれに、シアンは間を置いて頷く。知りたくて知った訳ではないそれをなぜローが知っているのか、甚だ疑問だった。


「じゃあこれは知ってるか?」

「?」

「人造の動物ゾオン系悪魔の実『SMILE』」

「………知ってるよ」


はぁ、と溜め息を吐いたシアンは「あくまでも噂程度でね」と付け足した。2年間の修行中、シャンクスが知識程度に知っておけと教えてくれた情報だった。
これから先、ドフラミンゴと戦うかもしれない時に備えて、シャンクスは様々な事を教えてくれたのだ。「早々戦う羽目にならねェと思うけどな!」と笑って言ったシャンクスだが、まさか本当に戦う事になるとは微塵も思っていないだろう。


「その『SMILE』を、カイドウは“ジョーカー”から大量に買い込んでいる」

「それのせいで、今カイドウの海賊団には500人を超える能力者がいるんだっけ?」

「あぁ。…よく知ってるな」

「シャンクスと同じ『四皇』だからね。そりゃあ知ってるよ」




そんな話をしている最中、未だパンクハザードにいる海軍達が現在の話の中心人物であるドフラミンゴに殺されそうになっているだなんて知らない麦わらの一味は、翌朝の新聞記事を読んで驚愕を露にしたのだった。






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