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殺戮ガス“シノクニ”


「とにかく、また外に出ないと…。目的も果たせたし、ルフィ達と合流しなきゃ」


腰に刀を差したシアンは部屋から出ようと静かに扉を開けようとするが、突然部屋に響き渡った声にバッと後ろを振り返った。


「《現在、炎の土地より散々に飛んで来た「スマイリー」の分身、「スマイリーズ」が土地の中央に向けて集結しつつある》」


馬鹿でかいモニターに映し出されたのは巨大な飴玉。次いでゲル状の何かが雪の中をずるずると蠢いているのが見える。
シアンは目を見開いて呆然とモニターを凝視した。


「《――やがて彼らがこの氷の土地で合体し、再び「スマイリー」となった時、実験は始まる。「スマイリー」は4年前にこの島を殺してみせた、毒ガス爆弾の“H2Sガス”そのものだ!!
前回の問題点は「毒をくらった者達が、弱りながらも安全な場所へ避難できた」という点だ」


シーザーの言葉を聞きながら、シアンは「うそだ、」とぽつりと呟いた。


「――そこで4年前の兵器「スマイリー」に巨大な「エサ・・」を与えることで、その毒ガスにある効力を追加し、完璧な「殺戮兵器」を完成させる!!!今日誕生する新しい兵器、その名も…、

――『シノクニ』!!!」


嬉々としたシーザーの声が遠くに聞こえる。それくらいシアンは混乱していた。


「4年前のあれは、ペガパンクの実験失敗による事故じゃなかったの…?」


当時、新聞に大きく取り上げられていたそれは世界に衝撃をもたらせた。ニュース・クーの号外を買い取ってシャンクス達と読んだ時は大騒ぎしたものだ。
実験失敗による有害物質の発生。そのせいでこのパンクハザードはとても人が生きられる環境ではなくなってしまった、と記事には書いてあったのに――。


「全部、こいつのせい…?」


未だこのモニターから流れる声の主、シーザーがマスターだと気づいていないシアンは流れる映像を見ながら考えを纏めていく。


「…外には出ない方がいいってことか」


シーザーの口振りから、彼はまたこの島をガスで蔓延させる気だ。
すぐにそこまで思い立ったシアンは、己の仲間の事を気にするが腐っても億越えの海賊団。馬鹿ではないし、こんな所でやられる訳がないと頭を振って部屋を出た。そうやって強がっていないと、今にも外に出てルフィ達を探しに行ってしまいそうだから。


「……今の状況が全く分かんないけど、マスターって奴をぶった斬ったらいい話だよね」


誰に問うでもなくそう言ったシアンは、もうコソコソ隠れることはせずにいつでも刀を抜けるように準備をしながら歩き進む。ガスマスクを着けた集団がわんさかと湧いて出てきたが、シアンは顔色一つ変えずに斬り捨てる。

2年。麦わらの一味は成長したが、それはシアンとて同じこと。四皇シャンクスに鍛えられたのだ、その実力は以前よりも遥かに強い。


「ハァ、ハッ……」


シアンの進む先にあるのは、第三研究所 B棟3階『ビスケットルーム』――。
走りっぱなしで疲労が溜まるが、今ここで足を止める訳にはいかない。ビスケットルームの中に入ると、そこには一人の女の子がいた。


「あなた…モチャ…?」

「シアン、おねえちゃ………っ!!」

「モチャ!どうしてまた中に…いや、それはガスのせいか…。…?そのキャンディは……」

「たすけて、助けてお姉ちゃん!みんなが…!」


目を潤ませながら必死にシアンに助けを求めるモチャ。その表情にシアンはキュッと唇を噛み締め、強い双眸を向ける。


「今チョッパーちゃんがね、みんなを止めてくれてるの…!でも、でも…っ、きっと止められない!」

「チョッパーが…?」


その直後、部屋の外から大きな物音がした。ドドドドド、と地面を掛ける音とともに、叫び声も。
その音に途端にモチャは怯えた顔を見せる。


「みんな来ちゃった…!! どうしよう、どうしようっ……!!」

「だいじょーぶ。――必ず守るから」


焦り、涙を浮かべるモチャに、シアンはにっこりと安心させるような笑みを見せた。大きなモチャの指を握り締めた後、シアンはモチャの前に立つ。自分よりも遥かに小さな背中なのに、モチャには何よりも頼もしく思えた。


「やったー!!」
「ついたぞー、『ビスケットルーム』!!」


入ってきた子供達はみんな大きく、太い鉄パイプを持っている。まだ子供なのに、とシアンは歯噛みしたが、そんなシアンの目から子供を隠すように大きな手のひらが子供達の侵攻を止めた。


「ロビン…!」


その能力にシアンはほんの少しだけ肩の力を抜き、ぎゅっと手のひらを握り締めた。


「モチャが危ない…!! 今、部屋で“キャンディ”を守ってくれてんだ!!」

「!!そりゃヤベー!! こいつら手段選ばねェぞ!!!」


チョッパー達が焦る中、子供達は大きな手をあらゆる手で攻撃してモチャとシアンの元へと走る。
ついに来たか、とシアンは鞘ごと刀を構えた。


「モチャ〜〜!!!」
「それキャンディだろ!!?」
「くれ!! キャンディくれー!! ハァ…ハァ…」
「誰だよお前!! そこどけー!!!」

「…!! ダメだよ、みんな。これはあげられない!! これは悪いキャンディなの!!!」


友達の言葉に胸を痛めながらも、モチャはキャンディを握り締め必死に声をかける。


「しっかりしてよみんな!! チョッパーちゃん達に『助けて』って言ったの私達だよ!? ゆうこときかなきゃお家へ帰れないんだよ!!?」

「ムダだ、逃げろモチャー!!」


チョッパーの叫ぶ声が聞こえる。モチャが後ろにある出口へと向かうのを横目で見ながら、シアンはそのまま刀の柄の部分を向かってくる子供達の鳩尾に沈めた。


「……助けるよ。だって約束したからね」


乱暴な行為とは真逆に、朗らかな微笑みを子供達へ向けたシアンは、背後にある気配にモチャの方へと振り向く。
バサバサ、とはためく翼。長い髪。そんな鳥女、もといモネから感じる殺気にシアンはついに鞘から刀を抜いた。


「…何だ?ありゃ…しかもシアンがいる」

「あ〜〜!!! あいつだ!!! ほら見ろ、おれが言ってた『鳥女』ァ!!!」




殺戮ガス『シノクニ』B棟充満まで

あと約20分




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