Side of You | ナノ

 02

四神が去った後、夜トは呆然と地面を眺めながら考える。



「(どういう事だ…、李卯に何かあったのか?)」



黙り込む夜トを心配する雪音とひより。毘沙門天と兆麻も考え込むが、何も分からなかった。



「……李卯は、恵比寿の死を嘆いていた」

「ヴィーナ?」

「夜ト、お前は李卯と恵比寿の関係を知っているか?」

「李卯と恵比寿?あいつら付き合いあったのか?」

「やはり知らないか…」



毘沙門天は重い溜め息を吐く。この場にいる者は誰も知らないのだ。李卯と恵比寿が子どものような喧嘩をする仲だということを。

ただ、顔を見合わせたらしょうもない言い合いをする。それは本当に短い時間で、むしろ知っている人の方が少ないだろう。



「…李卯、っ……李卯…!私は、お前と過ごす日々が、何よりも…愛おし、かった…!」



死に際に放ったその一言。

そして神議かむはかりの後、恵比寿が術師だと分かって七福神は残された。その時も『恵比寿と仲が良いから』という理由で残された李卯。



「……李卯の所に行くか」



毘沙門天は厳しい顔つきでそう言い、立ち上がる。夜トも行くことにしたのか、同じような顔つきをして立ち上がった。



「李卯の社に行こう」



自分たちはあまりにも李卯のことを知らなさすぎる。
そのことをまざまざと突き付けられた毘沙門天達は、とりあえず話をしに行くために李卯の社へと向かった。












――下界 小福の家



「すみません、小福さん…大黒も、悪いな」

「いーっていーって!それより陽ちゃん一人なんて珍しいねぇ。りいちゃんは?」

「李卯は…少し、用事があるみたいで…」

「……そっかあ。んじゃ、晩ご飯食べよ!大黒ぅー、食べよー!」

「りょーかい!」



李卯の神器、陽弥は一人で小福の家に来ていた。最初は李卯がいないことに驚いていた小福だが、陽弥の表情を見て何も聞かず、ただ笑ってご飯を勧めた。

そのことに安堵した陽弥は、未だ顔は強張っているものの少し肩の力を抜いて大人しく座った。



「そういえばねぇ、夜トちゃんが福の神になるー!って今頑張ってるみたいだよ」

「あー、この間も妖を50匹も倒したとか言ってたな」

「へぇ……あの禍津神が…」



純粋に驚いた陽弥は目を丸くした後、自然と俯いてしまった。小福と大黒は互いに顔を見合い、次いで陽弥へと目を向けた。



「……アイツ、を、どうしたら救ってやれるんですかね…」



ぽつり、と吐き出されたそれに、小福達は詳しく聞くために鍋の火を止めた。



「…俺、止められなかった」



ギュウ、と痛いくらいに握られた拳から伝わる後悔。顰められた眉をそのままに、陽弥は今李卯に起きていることを口にしようとした。

――瞬間、



「小福!!」

「小福殿!!」



ドアを突き破るように入ってきたのは夜ト達だった。大きな物音を立てながら入ってきた彼らは御構い無しにズカズカと上がり込んでくる。



「小福!大黒!! 李卯を見なかったか!?」

「――っ、陽弥さん!?」



陽弥の名を呼んだのはひよりだ。まさか居るとは思わず驚いたらしい。それは夜ト達も同じで、ちゃぶ台の前に座っていた陽弥を見て心底驚いた顔をした。



「は、陽弥!? っ、お前がいるんなら李卯も、」
「いない」



夜トの言葉にかぶせるように、陽弥はきっぱりと否定した。



「は、陽弥……李卯さんがいない、って…」

「言葉通りだ。李卯はいない。ここには俺一人で来た」



シン…と静まり返る部屋では、陽弥の声はよく通った。雪音は夜トがいなくなった時のことを思い出したのか、焦ったように口を開く。



「し、心配じゃねーのかよ!」

「ちょ、雪音君!?」

「だって!あの人アンタしか神器いねぇんだろ!? 夜トは…前までは野良がいたけど、あの人には…李卯さんには陽弥さんしか神器がいねぇんだろ!?」



雪音の真っ直ぐな言葉に、陽弥はダンッ!と拳で畳を殴った。眩しいほどの金髪が重力に従ってさらりと垂れる。そのせいで陽弥の表情は見えない。



「…分かってる。もう、李卯の神器が俺しかいないことは、他でもない俺が一番良く知ってる、実感してる」

「っだ、だったら!」

「だからこそ!アイツは俺を守ろうと必死なんだよ!!」



神器なのに、どうしてこんなに無力なのか。

陽弥は、数十年ぶりに自分の弱さを、無力さを痛感した。







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