Time of Moment | ナノ


コールしましょ

その日の夜、これまでの日常通り雫の携帯には東堂から電話がかかってきた。

雫はリビングから自室へ駆け込み、ベッドに座って電話に出た。



「もしもし」

《何故箱学におらんのだ!雫!!》

「………」

《おい!聞いているのか!》

「…うぅ〜…、じんぱちー…!」

《雫!? な、何故泣く!!》



突然泣き出した雫に驚く東堂。怒鳴りすぎたか、と考えるが、雫はこれくらいじゃあ泣かない…多分。



「わた、私だって…!尽八と一緒の高校通いたかったよ…!」

《そ、そうなのか!?》

「当たり前だよ!だけど…尽八と私のお母さん達が…」

《あぁ…、そういう事だったのか…。悪かった、いきなり怒鳴ったりして…》

「んーん。…電話してきてくれたから、許す!」

《ワッハッハ!電話など毎日してやろう!》

「えー…、毎日はちょっと…」

《何故嫌がる!巻ちゃんとは毎日しているぞ》

「(無理やりだろうなぁ…巻ちゃんごめんね)」



東堂の言葉に雫はタマ虫色の髪の長い人物を思い出し、そっと心の中で誤った。



《学校はどこだ?》

「千葉の総北ってところ!」

《総北!?》

「ど、どうしたの?」

《そこには巻ちゃんがいるぞ!》

「…ほ、ほんと!?」

《あぁ!》



巻島が同じ高校だと知らなかった雫は、知っている人がいる事に顔が綻んだ。



「そっかあ…ふふ、嬉しいなぁ…」

《…その、あまり巻ちゃんにくっつくなよ》

「分かってますー!」



東堂の言葉に笑いながら返事をする。普段は自信満々なくせに、こういう時だけは自信が無いようだ。

ファンの前では見せない一面を、自分だけが知っている。その優越感に、雫はぽかりと胸があったかくなったのを感じた。



《そう言えば…、学校まではロードで行っているのか?》

「…さすがに無理だよー。あ、でも…途中まで電車で行って、そこからロードに乗るのもありかも」

《うむ、それがいい!次会う時に鈍っていたら怒るぞ!》

「大丈夫!あのね、高校の裏門に坂があるんだけど、そこが激坂なの!」

《む、そうか!それは楽しめそうだな!》

「うん!クライマーの腕が鳴るよ!」



東堂と共に走っている内に、自然と雫もクライマーとなった。やはり山ばかり走ったからか、それとも元々山が好きだったのか。

否…その両方だと、雫は自覚していた。



「尽八も部活、頑張ってね」

《任せておけ!この山神の名は伊達ではないよ!》

「ふふ、うん。…じゃあね、おやすみ」

《あぁ…体調を崩すなよ。おやすみ》



優しい声色を最後に、雫は電話を切った。

東堂は絶対に自分から電話を切らない。それを見越して雫から切ったのだ。



「…そう言えば…、小野田君もあの激坂登ったって言ってたな…」



――ママチャリで


雫はその事を思い出し、面白そうに瞳を細めた。








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