この大きな愛はあなたのためだけに

夜が明けて、早起きの鳥たちが活動を始めていた。黒く塗られていた空も次第に光を取り戻し、黒いそれが剥がれ落ちて朝となる。暖められていない風はどこか寂しげだった。私とフィオルンはほぼ同時に目を覚ました。昨日のうちにダンバンやラインが集めておいた薪を喚び出した炎のエレメントで焚き、それを使ってフィオルンが手際よく朝食を作る。彼女は幼い頃に両親を亡くし、年の離れた兄ダンバンと共に支え合って生きてきたという。その為か、年の割に大人びた一面を見せるフィオルン。彼女は家庭的で、僅かな食料、僅かな時間であってもとても美味な料理を作ることが出来る。今日の朝食はパンと、熱々のスープ。それに、リキが集めてきてくれたフルーツ。フィオルンはスープを作り終えて、フルーツをナイフで切っている。寝ずに番をしていたラインとリキは、朝食などの準備をしている間に体を休める。それはほんの僅かな時間であるが、必要な時間であった。少しずつ光を増す世界。私は仲間たちを起こしに向かう。横になったばかりのふたりは、もう少し寝かせておくべきだ、と思いまずはカルナを起こすことにした。


全員が食事を終えてから、武器や防具を確認し、荷物をまとめる。今日はコロニー6まで行き、依頼人にすべての報告をする。その後街を出て燐光の地ザトールへ行く。ザトールにはノポン族が何人かいて、私たちは彼らの依頼を受けることにしている。彼らは私たちを待っている。以前、訪れた時に「また来たらお願いしたいことが幾つもある」と言っていたのだ。ザトールは幻想的なところではあるが、凶悪なモンスターも多い。やや急ぎ足で向かう必要があった。前に勝ち目の無かったモンスターも、今なら斃せる。私たちは確実に力を付けた。それは胸を張って言える。世界中を巡って、たくさんの経験を重ねてきた。だから、きっと。だが、自信がつくのは良いことだが、過信してはいけない。そうも思う。私は前を見据え、歩き始めた。少し先を行くダンバンとラインの背を見つつ。隣にはシュルクとフィオルン。後ろにはカルナとリキ。私たちは「仲間」だ。私はそんな仲間を信じている。ここまで一緒に来た。これからも一緒に行く。「世界を救う」、と言うのは少し恥ずかしいけれど、自分たちの行為がそういったものに繋がっていると信じてもいる。私は錫杖をぎゅっと握った。青空が私たちを見下ろしていた。

コロニー6で昼食をとった。その後、報告をしてまわり、集めておいたアイテムを売り、すぐにここを発った。柔らかな草の上を歩く。緑の匂いがする。鳥の声、虫の声。そして私たちが紡ぐ言葉。そういったものが空気を震わせている。ザトールまではまだ少し距離があった。私はシュルクとフィオルンと並びながら歩いている。シュルクの手にはモナドがある。機神兵を断つ、神の剣。フィオルンは二本の剣を手にしている。彼女もまた機神兵を容易く断てる強さを持っている。ふたりとライン、ダンバンはコロニー9が故郷とする。私も行ったことがあるが、あの街はとても優しい時間が流れていて好きだ。大切な人たちの故郷だから、というのもあるのかもしれないが。またあの街に行くことがあったら、行きたい場所がある。「見晴らしの丘公園」。フィオルンが以前連れて行ってくれた、町外れの公園だ。あの場所はシュルクもフィオルンも気に入っているらしい。私もあの公園から見渡せる景色と、穏やかな風景が好きだった。私はふたりのことを見て、それから遠くを見る。目の前にある道の、その先を。進むべきその道の果てを。その道には先を進んでいるダンバン、ラインの背中も見える。迷うことを知らない、大きな背中だ。私たちは誰かひとりが欠けてもいけない。すべてがここに在ることで、一枚の絵が現れるパズルのピースのように。胸には熱いものが滾っている。それらは繋がって、一本の線となる。その線の先にあるのは、「未来」だ。もうすぐ、ザトールへ着く。それも長い長い一本の線の一部。