この大きな愛はあなたのためだけに

巨神の腰にあたる「燐光の地ザトール」。濃霧が漂い、少し先もぼやけて見える。夜になるとあちらこちらにある木々が光り輝いて幻想的な世界に変わる。今もその通りで、私たちは警戒をしつつ沼地を進んでいた。かつてはここ一帯もハイエンターが統治していたという。私は隣を歩くメリアを見た。頭部の翼。夜空を流れる光のような銀の髪。彼女の身体にはそのハイエンターの血が流れている。私の身体を流れるホムスの血と共存しつつ。ザトールには幾つものオベリスクや遺跡があって、オベリスクの付近は不思議な力によってモンスターの活発化を抑制されているらしい。だから、私たちはそういったオベリスクを拠点とし、依頼をこなすことにした。


次の日。メリア、シュルク、そして私の三人はザトールの奥まで、アイテムを探しに行くことになった。お兄ちゃんたちはまた別のアイテムを収集すると言って、光を放つオベリスク付近で別れた。ザトールの奥には姉妹像があった。私がそれを見て疑問を投げかける。私もザトールに来たことはあったけれど、ここまで来るのは初めてで、その為この像を見るのも初めてだった。

「ああ、あれは秩序と正義を司る姉妹の像だ。名はカトールとソルタナ。監獄島を封印する島の名前と同じだが、詳しいことは私にはわからない」

メリアはそう説明をしてくれた。銀色の髪が少しだけ揺れている。監獄島。それは様々な意味で運命の地であった。私が白い顔つきとしてシュルクたちの前に出たのも、そこが初めてだった。フェイス・ネメシス。私が組み込まれていた機神兵の名前だ。そこでは幾つもの思いが交差し、目を覆いたくなるような悲劇が彼らを襲った。恐ろしいほどに美しいエルト海に浮かぶ、その塔では。

アイテムを無事集め終え、私たちはオベリスクに戻ることにした。道中、数体のモンスターが私たちに襲いかかってきたけれど私とシュルクの剣、そしてメリアのエーテル攻撃によってそれらは地へと伏す。自分たちも経験を重ねて、少しずつではあるが確実に成長しているのだなと思う。何かを殺めることでそれを実感するということは、ひどく残酷なことなのかもしれない。けれども踏みとどまってはいけない。私たちには為すべきことがある。それを阻むものとは戦わなくてはいけない。それが私たちの正義なのだろう。ならば、その正義の裏にも正義や秩序があるのだろうか――?メリアの説明を聞いてからだから、だろうか。そうした疑問が膨らんで、私の心が少しざわついた。

オベリスクまで戻ると、既にお兄ちゃんたちは戻っていて、私たちを出迎えてくれた。彼らにも怪我は無いらしい。心がじんわりとあたたまる。私はシュルクとほぼ同時に座り、メリアは数秒送れて腰を下ろした。もう少しでまた世界は色を変える。木々に光が灯って、表情を変える。何度見てもそれに見慣れてしまうことはない。想像できないほどの美しさだから、と言うのが正しいだろうか。エルト海の流星にもまたそれに近いものを感じる。夕食はカルナが用意してくれていた。それを口に運びつつ、私はまた考える。今までも、これからも。ずっと一緒に来た仲間たちの顔を見つつ。いつまで私たちは一緒にいられるのだろう?という問いはいつも見ないふりをしてきた。別れが来る、という現実が見たくなかったから。けれども今日はそれを直視している。私たちの旅はまだ終わらない。けれど、終わりは来る。必ず。ピリオドのその先には、何があるのだろう?そんなことを考えてしまう自分が、一番別れの日を恐れているのかもしれない。

「フィオルン?」

沈黙していた私の名を呼んだのは――。その人物の顔には、怯えなどといった陰りは少しもない。私はその人物の名を口にして、もう一度前を見、それからその声の主を見た。まだ、終わらない。だから、私はみんなと共に行く。再びの誓いを立てる私を、仲間たちは優しく見ていてくれた。私もみんなを見る。胸にある想いは、どんどんと伸びていく。生命力に溢れる、草木の如く。

――目の前にあるこの道を、ずっと彼らと歩んでいこう。私たちが望む未来に辿り着くまでは。

私は目を細めた。こぼれた笑みは、きっと昨日よりずっと自然で、明るいものだと思えた。


Xenoblade4
2014/06/10


title:泡沫