その大きな心は私を受け止めるために

どれだけ長く感じる夜も、いつかは明けるものだ。私はそんなことを思いつつ身体を起こす。包まっていたそれから離れて、空を見れば次第に明るさを増していく世界が私のことを見下ろしている。今日はライン、そしてフィオルンと共に行動をすることになっていた。ここから少し離れたところにいるモンスターを数体倒す。それが今日の為すべきこと。私は昨日のうちに手入れをしておいたエーテルライフルを担ぎ、仲間の待つ場所まで歩いた。起きてきた私を迎えてくれたのは、メリアとダンバンだった。ふたりは炎を挟むように座って、何やら言葉を交わしていた。先に私の存在に気付いたのはメリアで、彼女は小さく微笑んで「おはよう」と声をかけてくれた。

「おはよう、メリア。ダンバン」
「カルナ。おはよう」

ダンバンも穏やかに言う。そこにいるのは私と彼女たちだけ。つまり三人しかいない。私たちの間をそっと抜けていく風は仄かな花の香り。それによって私たちの髪などがさらさらと踊る。私はメリアの隣に静かに腰を下ろす。メリア――メリア・エンシェント。彼女はホムスとハイエンターの混血児。頭部にある小さな翼は伝説ともされるハイエンターの血がその身に流れていることを証明している。彼女はハイエンターである故に、私たちよりもずっと長い時を生きている。ダンバンやリキより、もっともっと長い時を。ダンバンはそんな彼女を優しく見ていた。


「それじゃ、行ってくるぜ。シュルク、お前たちも怪我しないようにな!」
「うん。ラインたちも気を付けてね」

シュルクがひらひらと手を振った。それを見てから私たちは歩き始める。モンスターの出現するポイントはここからずっと北。そこまで結構な距離があるけれど、私もラインも、勿論フィオルンも文句などを口にはしない。困っている人たちがいるのだ、モンスターが襲ってくることで。そんな人達を放っておくわけにはいかない。それに、私たちには力が必要だ。戦うことで得られるものは多い。ただ、経験を積むだけではなくて、もっと違った何かも得られるものだ。ちなみにシュルクはリキと一緒にアイテム整理をすると言っていた。それも結構な仕事である。ダンバンとメリアは昨日倒したモンスターについて、依頼人にそれを報告しに行くと言っていた。夜になれば皆が集まって、今日一日を振り返り、明日を共に迎えることになる。

出現ポイントまでの道。当たり前のことだが、モンスターなどが私たちに牙を剥く。私はタイミングを見計らってラインとフィオルンにヒールを唱えたりしつつ、離れて攻撃を仕掛ける。ラインは敵意を集める。アタッカーであるフィオルンが戦いやすいように。機械化されたホムスであるフィオルンの攻撃力には目を見張るものがある。願って得たものではない。求めて掴んだものではない。それでも彼女はすべてを受け入れて、モナドを振るうシュルクとその仲間たちの力になることを望んだ。その力を以って。


もうすぐ着く、というところで休憩を挟むことにした。持ってきたパンをフィオルンとラインに渡し、自分の分も手にとって口へと運ぶ。晴天だった。爽やかな風が吹いている。

「もう食べちゃったの!?」

フィオルンがラインを見て驚きの声を上げる。彼女の手にも、私の手にも、まだ三分の二ほどパンが残っているというのに、ラインの手にそれはもう無い。パンだけではあれだから、とリキが昨日集めてきたフルーツを幾つか持ってきていた。それを彼は口に運んでいる。

「ん?ああ、美味かったぜ」

ラインが言う。フィオルンは少し呆れ顔。私はくすくすと笑ってしまった。

「何だよ、カルナ。そこ笑うところかー?」
「ごめん、なんだか可笑しくて」
「可笑しい!?どこがだよ!」
「うん、そういうところ」

え?と疑問符を浮かべているラインと、そんな彼と言葉をかわす私を見て今度はフィオルンも笑う。「ふたりのやりとりが面白くて」と。それを聞くと今度はラインも笑った。笑顔が伝染していく。私は見る。大きな心を持ったラインを。全てを受け止めてくれるような、そんな存在だ。少し単純なところはあるけれど、いつだって彼はそう在り続けてくれている。寂しさを忘れさせてくれるような、そんなあたたかな存在。

「じゃ、そろそろ行こうぜ」

彼が立ち上がる。私とフィオルンは頷いた。