ひと晩、さも当たり前のようにダンテの部屋のベッドで眠った。
自分の部屋で寝ようとしたメアをやんわりと制したダンテの表情が微かに不安そうで、手を引かれるまま彼のベッドに潜り込んでいた。きっとまだ薬の影響を心配されているんだ、とメアは薄々察していた。事務所に帰って来てからは、体の痣が少し痛むくらいで別段不調なところはなかった。
深い眠りから醒めると部屋はすっかり明るく、くたびれたレースのカーテンがかかった窓の外は昼の色をしている。うつ伏せで口を半開きにしているダンテの寝顔を確認してからメアは静かにベッドを降りた。
寝汗がひどかったのでシャワーを浴びようと着替えを持って階下へ向かう。ローテーブルの上の茶封筒を一瞥してから、メアは浴室に入った。
あれはアダムが最後に寄越したレッド・ラムの幹部リストだった。まだしっかりと確認はしていないが、少し目を通しただけでも信憑性のありそうな名前や情報が載っていた。それを頼りに地道に法の裁きに掛けて消して行くしかないのだろう。最悪の場合、自分の手を血で汚すことも厭わないと腹は括っている。薬を根絶やしにする方法としては、今のメアではそれくらいしか思いつかなかった。
排水溝に渦をまいて吸い込まれていく髪の毛の筋とシャンプーの泡を見つめながら、メアは強く拳を握りしめた。
風呂から上がって髪の毛をタオルで乾かしながら、冷蔵庫からチェリーコークの缶を取り出して一口飲んだ。
ソファーの上で膝を抱えながらそっと紐付きの封を開いてみる。
リストには凡そ二十人近いメンバーの情報があった。迂闊に手出しは出来なさそうだし更に調べて優先順位をつける必要があるな、と息を吐いてメアは天井でクルクルと回っているシーリングファンを目で追う。
こめかみを指で撫でてみる。ふと固い銃口を押し当てた感触が蘇ってメアは眉をしかめた。あの時、頭の中いっぱいに響いていた声はこうだ。
『お前、生きてて恥ずかしくないのか?』
幻覚を見て悪魔に取り憑かれてしまった、と思った。早く死なないと父のように暴れてまたダンテに迷惑をかけてしまう、彼に殺されるくらいなら自分で死んだ方がずっとマシだーー
汗をかいたコーラの缶を握ってメアは強く目をつむった。ここ数日の身勝手な行動でダンテを沢山傷つけてしまった気がする。だって彼は双子の兄も、母親も亡くしている。好きと言ってくれた彼の言葉を信じるならそれは……、とメアが考えこんだところで階段から降りてくる気配があった。
パジャマ代わりのTシャツの裾から手を突っ込んで背中を掻きながらダンテがあくび混じりに、
「はよ……」
「おはよう」
眠れた?と聞くとまだ頭が目覚めてないのかこくこくと頷きだけ返してダンテは浴室に入っていった。やっぱり昨夜は少し暑かったみたいだ。
メアはリストに視線を戻しながら頬杖をついた。自分一人では絶対に無理だ、と不安になった。エンツォや他の情報屋にも手伝ってもらわないといけない。メアにはアダムから与えられた戦闘力はあったが、情報収集するコネが圧倒的に不足している。リストを手に入れればそれで済むと思っていた節があったが、まだスタートラインに立ったばかりだったんだ。
やっぱり自分は詰めが甘いし世間知らずなんだな、とメアが溜め息をついていると、首筋にヒヤリと冷たい感触が当たった。
「ぴゃっ!」
「朝から溜め息ついてどうした」
いつの間にか首からタオルをかけた上半身裸姿のダンテがソファーの後ろに立っていた。風呂上がりの湿気をまとい、チェリーコークの缶を開けながらニヤリと笑う。
「もう昼だよ」
事務所の外を見やってふーん、と生返事をするとダンテはコーラをあおりながらメアの隣に腰を下ろす。
「これが親父さんからもらった情報か」
「そう」
メアは髪の毛に指を差し込んでじっと頭を抱えた。まだ何も行動に移していないのに不安で胸が苦しい。
向こうが一人きりの隙をつくのは並大抵のことじゃないし、武装していない方がレアケースだろう。かつては人だった作られた悪魔たちがうじゃうじゃ湧いてくる可能性だってあるんだーー
目を細めて資料を眺めていたがダンテがああそうだ忘れてた、と明るい声音で言う。
「これ、俺も手伝っていいか?」
「手伝、う……?」
「マフィア退治」
ふっと笑うダンテの表情にメアは思わず唖然としてしまった。すっかり自分一人で片付けるつもりだったからだ。
「いいの?」
「悪魔作られちまったら俺の仕事が増えるだろ。めんどくさいんだよそういうの」
週休六日主義なんでね俺は、と飲み終えたコーラの缶をぐしゃりと握り潰して後ろのゴミ箱に向かって放り投げた。
メアは思わず跳ねるようにダンテの首根っこに掴まるとぎゅっと抱きしめる。
「ありがとう……!一人じゃ不安だったの」
「そっか」
湿り気を帯びたTシャツの背中を撫で下ろすダンテの手の平の温かさにメアはほっと息を吐いた。もっとダンテのこと頼っていいのかな、という思いと、でも迷惑かけたくないな、という感情がごちゃ混ぜになって忙しい。つい喜んでしまったけど本当にそれでいいんだろうか?
メアはそっとダンテの顔を覗き込むと、笑みを滲ませた瞳と目があう。
「今お前、小難しいこと考えてるだろ」
ムッ、と眉をひそめてメアはダンテの額に自分の額を擦り寄せた。
「考えてないもん」
「あっそ」
その微笑む唇がチェリーコークの着色料で淡いピンク色に染まっているのが見えて、あ、とメアの意識が幾許かフリーズした。
可愛い、と思った時には勝手に体が動いていて、ダンテの唇にちゅ、とキスを落としてしまう。
やってしまった、と思った。
キョトン、としたアイスブルーの瞳と目が合う。そこでメアはお腹の底にどろりと淀む衝動のようなものを自覚した。自分から飛び出したくせに、一週間ちょっとダンテと離れていた間に溜まった澱のような"寂しさ"が急に胸に迫って来ていた。
誤魔化すようにぎゅっともう一度しがみついたが、どうやらもうダンテにはその衝動もバレてしまったみたいだった。
「まだ"昼"なんだろ」
その声が笑っているのに気がついてメアは顔がカアッと熱くなった。
「……もう"夜"、だよ」
ならいいか、とひょいっと抱き上げられてダンテの腕の中で揺られながら二階の寝室に運ばれる。中に入ってドアの前で下ろされると、ぐっと行く手を遮られて扉に背中がぶつかった。ダンテが少し不安げに囁いてくる。
「一応聞いとくけど、俺がしたい事と、メアがしたい事、一致してるよな……?」
返事をしないままメアが背伸びをして腕に掴まると、ダンテも腰を屈めてくる。触れ合った唇の温度はお互いに熱かった。メアからちろりと舌を伸ばすとダンテの唇が薄く開かれ、そこに誘い込まれるように口付けが深くなる。混ざり合う呼吸の甘いチェリーの人工香料の匂いに頭がくらくらした。腰を抱き上げられてベッドに押し倒されたところであっ、とメアはダンテの胸板をやんわりと押し返した。
「今日は、私がするから」
ん?と小首を傾げるダンテに、メアは困ったように照れてへらっと笑う。




ベッドの縁に腰かけたダンテの膝の間に体を潜り込ませると、メアはそっと上目遣いで様子を伺う。明るい部屋の中で裸になったダンテの体はやっぱり美術館の展示品のように美しかった。下腹部の銀色の下生えの中で緩く勃ち上がった陰茎にふうと息を吹きかける。
「無理しなくていいんだぞ」
さら、と髪の毛を撫でられて、メアははにかんで笑う。ベイビーピンク色をしたセットアップの下着の肩紐を直しながら、
「私がダンテにしてあげたいだけだから……」
たらり、と手の平に唾液を垂らしメアはゆっくりとダンテの竿を上下に愛撫し始めた。あまり上手い自信はないが、こういった行為は初めてではない。父親の仕事の手伝いでターゲットに隙を作る為に仕方なく覚えたことだった。
過去を思い出して胸がちくりと痛んだが、今目の前の相手は自分が好きな人だ。それはしたことのなかった経験で心臓がトクトクと高鳴った。
硬さの増して来た竿の付け根の袋をやわやわと揉みながら、はぷ、と息を漏らして亀頭を口に含む。ダンテが悩ましげに眉根を寄せながら、長いメアの髪の毛をかき上げて持ち上げた。
喉を開いて根元まで飲み込もうとするが、息が苦しくとてもじゃないが全部は入りそうになかった。この前はこんなに大きいのをお腹の中に受け入れたのか、と考えた瞬間に下っ腹が熱くなってメアは喉をひくりと震わせてしまう。
余った付け根を手で扱きながら、口内で締め上げてまた喉の奥の限界まで飲み込む。その長いストロークをぐぷぐぷと繰り返しては、時折亀頭をちゅうと吸い上げるとダンテの肩がぴくりと震える。濡れた粘性の音とダンテが時折漏らす息が静かな部屋に響いていた。
一呼吸つこう、と口の端から溢れた唾液を手の甲で拭っていると、ハッと短く息を零したダンテと目が合う。
「……なんでそんなに上手いんだ?」
メアはそれには答えずに、亀頭をくるくると指で撫でさすりながら裏筋にぬるりと舌を這わせた。
「きもちいい……?」
「ああ」
よかったあ、と笑ってまた深く呑み込む。舌がヒリつきそうなほどダンテの杭は熱さを増していたが、その熱でメアの頭の芯も蝋燭のようにどろどろに溶けていくような心地がした。気持ちいいって言ってくれた、上手いって言われた。その喜びで甘い疼きがジンジンと背筋を走っていく。
んぷ、と息を漏らしながら杭を咥え込み舌でざりざりと裏筋をねぶると噛み殺した声が頭上から振ってくる。先端を含んで舌の先でチロチロと鈴口をつつくと、空いた片方の手で頬を包み込まれた。それをくりっと亀頭を頬に寄せながら見上げると、切なげな目と視線が噛み合う。銀髪の影に揺れるその子犬のようなアイスブルーの瞳を可愛い、と思ってしまった。
頬の肉で飴でも舐めるように亀頭を擦りあげてから、やわく甘噛みをしてまた深いストロークに戻った。
「メア……そろそろ口離せ……」
頬に添えられたダンテの手に汗が滲むのを感じてメアは、陰茎を咥えたまま話す。
「れそう?」
「ああ」
「らしていいお」
ちゅこちゅこ、と震える杭を強く吸い上げながらずるりと呑み込んで、付け根で熱く張りつめた袋を揉みしだいた。それがとどめになったらしい。
「っ、あ……くそ……っ」
ぶるり、とメアの口の中で杭が震えた。奥に吐き出された精液にむせそうになったが、ごくりと喉を鳴らして飲み込む。量の多さと絡みつく粘度の高さに一度では飲みきれず、何とか口内で全ての吐精を受け止めてふっ、ふっ、とメアは短く鼻から息を吐いた。
「悪い、出しちまった……吐き出した方がいい」
ベッドサイドに置いてあったティッシュを差し出されたが、メアはふるふると頭を振った。唇の端から溢れそうになる唾液と精液を手の平ですくって、んく、と何度か喉を鳴らして飲み込む。苦さと独特の匂いがして決して飲みやすいものではなかったが、今は全部受け入れたかった。何とか飲み込んで「飲めた」と笑うと、苦笑されて頭をくしゃくしゃと撫でられる。
「腹壊すぞ」
「別にいい」
ゆるく勃ち上がった杭の先にもう一度キスをして、メアはブラジャーのホックをぷちりと外した。
その突然始まった目の前の光景に、は?とダンテが声をあげる。
「何してんの……」
胸の谷間に唾液を垂らすと、やんわりとダンテの陰茎を乳房で包み込んだ。出来るか不安だったが寄せれば大丈夫かな、とメアはぎこちない動きで胸を上下させる。この愛撫は誰にもしたことがなかった。
呆気に取られていたダンテが、むず痒そうな表情でメアの髪をすくい上げる。
「どこで覚えたんだそんなの」
「学校の友達に聞いた……」
実際に経験豊富な子や耳年増な子は沢山いたから、何となく"オトコノヒト"が喜ぶこととして漠然と知っていただけだ。
胸の谷間でまた張り詰めていく杭に、メアは熱い息を吐く。心臓に近いところで高まっていく熱の感触が愛おしかった。
むにゅむにゅと足の間で柔らかく形を変えるメアの乳房と、とろんとしたサファイアブルーの瞳をじっと見下ろしていたダンテだったが、
「もういいよ、メア」
また出ちまう、と苦しげに笑ってダンテはメアの体をベッドの上に引きあげる。
メアは首筋にキスを浴びながら、
「ダンテはこういうの嫌い?」
あ?と眉をひそめてからダンテは気恥しそうに囁く。
「好きだし、お前がしてくれることなら何でも好きだよ」
ちきしょう、と悔しげにおでこを甘噛みされてそのこそばゆさにメアはふふと笑ってしまう。そのまま下ってきた唇に舌を絡め取られてメアはふっと息を吐いた。
乳房を撫でられながら、下腹部にダンテの指が這って恥ずかしさでもじっ、と膝を擦り合わせる。下着の上から秘裂をなぞられて、メアは小さく喉を鳴らした。その脚の間はまだどうしても慣れない領域だった。ぐしゅり、と指が湿る感触にダンテがニヤリと笑う。
「ずっと興奮してたのか」
「こんなに大きいのがお腹に入ってたんだ、ってびっくりしたんだもん……」
すり、と子宮の上あたりを撫でてメアは顔を真っ赤にした。つられてダンテもへえ、と顔を僅かに赤くしながら、メアの下着を下ろしていく。
内腿を舌で舐め上げられてぴくり、と体を震わせながらメアはか細い声で尋ねる。
「なにするの」
「仕返し」
唾液を絡ませた手の平でぐじゅぐじゅと脚の間をやんわり撫でさすられて腰骨の辺りに熱が溜まっていく。膝の裏に手を差し込まれてしまい、閉じることも出来ずダンテの成すがままだった。
「あっ、やだ、ダンテ……っ」
あまりにも明るい室内が急に恥ずかしくなって来て、シーツを掴んで体を隠そうとしたが布地が絡まってしまって上手く行かない。
「何を今更」
ダンテの舌で秘裂を舐め上げられて、メアはや、と短い悲鳴をあげた。
長い舌で萌芽をぐにぐにと突っつかれて脚の間に埋まったダンテの銀髪にしがみつく。
すぼまった舌の先がぬるりと秘所に入って来る感触にメアはぎゅっと目を瞑ってピクピクと体を震わせた。微かに視界が白いもやに包まれる。
それにもお構いなしにダンテの舌先はちゅぽちゅぽと体内を出入りし、まるで蜜を啜るような舌の動きをした。その感触に余計にどろり、とお腹の奥で熱が滴り落ちるのが判って頬が熱くなった。
「メアは外側よりナカの方が弱いよな」
笑いながらダンテが口に含んだ長い指がてら、と唾液に濡れて光る。メアはふうふうと胸を上下させてそれをぐったりと見やりながら、秘所に指が差し込まれる感覚に背中をぐっと反らせた。
「ふあっ……」
「流石にまだキツいよな」
くぷくぷ、と指を出し入れされてお腹の奥が疼いてしまう。気持ちいいけどもどかしい、もっと大きくて熱い形を一度知ってしまっているから尚更だった。メアは眦から涙を零しながら、ダンテの手首をそっと掴んだ。
どうした?とダンテが見やると、
「もう……ダンテの入れてほしい……っ、お腹じんじんして苦しい……っ」
べそべそと泣きながら懇願すると、ダンテが眉根をひそめてあーもう、とベッドサイドの引き出しを開けた。固く尖った杭にコンドームをかけながら、メアの頬にキスを落とす。
「ほんとお前は……可愛いやつだな……」
頭を撫でられて耳元で低く囁かれた言葉にぞくりと背筋が疼いた。
「そうやって煽ったからには、途中で泣いてやめろって言ってもやめないからな?」
宛てがわれた先端が秘所に打ち込まれてメアの内側がきゅ、と締まった。
「ふああ……っ、ダンテェ……」
それにも構わず押し進んでくるダンテの熱にびくびくと体が震えてしまう。一週間ぶりのその熱の恋しさに胸が張り裂けそうだった。
ごり、とお腹の奥を突き上げる感触を上から撫でているとぐるりと視界が回転した。
繋がったままダンテに体を反転させられ、四つん這いのような体勢になってしまう。後ろから覆いかぶさって来たダンテに乳房を刺激されながら更に秘所の奥深いところを抉られてメアははくはくと息をした。
「当たるとこが……ちがっ……」
刺激の違いに目の前でチカチカと星が瞬いた。ダンテが腰を動かし始めるとその快感の違いはより顕著になる。じゅぷじゅぷ、と律動に合わせて上がる濡れた音に混じってメアの甲高い嬌声が響いた。
「やだっ……ふあっ、ダンテ……っ」
唇を噛みしめてピクピクとメアは果てたが、ダンテの腰の動きは容赦がなかった。
とっくに上半身には力が入らず、下半身も支えられていないと膝立ちしていられなかった。揺さぶられるたびにシーツに胸の先端が擦れてしまって嫌というほど敏感になっている。腰の骨が甘く溶けていく感覚が怖くて、生理的な涙が止まらなかった。
体をよじってダンテを見やると、するりと頬を撫でられ涙を拭われる。
「苦しいか?」
「お、おかしくなっちゃう」
そうか、と笑ってうなじを軽く噛まれるとまたくるりと体を反転させられた。こっちは呼吸もままならないのに!とメアはふうふうと胸を揺らして息をする。
ダンテに腰を捕まえられると、ぐり、と子宮を持ち上げられるような感触にぞわりと肌が粟立った。
「あっ、あっ、もう、やめっ……っ」
その言葉を封じるように舌を絡め取られて、メアはビクンともう一度果ててしまう。
「本当にナカが好きなんだな」
ぬぷぬぷ、と涼しい顔で最奥を突き上げながらダンテは揺れる白いメアの乳房をそっと揉みしだいた。その手首に掴まりながらメアはきゅう、と内側でダンテの杭を締め上げる。
「気持ちいい?」
声にできずにこくこくと頷くとそうか、とどこか安心したようにダンテは呟いた。
絶え間なく与え続けられる快楽に頭にずっと薄もやがかかったようだ。
弱い最奥を熱い杭でぐりぐりと執拗に擦り上げられてメアは何度目かの絶頂を迎えてしまう。
「ふあっ……あああっ……!」
白く染まった視界の中で息を切らして眠たげに目を瞬かせると、ダンテが深く繋がったままゆっくりと覆いかぶさってくる。髪を撫でられてメアが物欲しげに唇を尖らせると期待通りにキスが降ってきた。今日はダンテを気持ち良くしてあげようと思ったのに結局彼のペースに飲み込まれてしまった、とメアは少し悔しい思いになった。
角度を変えて啄むようなキスをしてから深く息を吐く。まだ体内に残るダンテの熱い杭の感触がじんわりとお腹に滲んで心地よかった。
ふと明るい室内でダンテのアイスブルーの瞳がキラキラと輝いたかと思うと、ほたりと温かいものが降ってきた。最初は汗かと思ったが、メアは手を伸ばしてダンテの頬を拭う。
「……泣いてるの?ダンテ」
そう尋ねた途端にパタパタと降ってくる勢いが増した。すり、とメアの手に頬を寄せるとダンテはああ、と声にならない震えた涙声をあげて鼻を啜った。
「くそ、泣くつもりじゃなかったのに」
と泣きながら笑うダンテの頭を抱き寄せてメアはその広い背中をさする。
どこか痛いの?と聞きかけて、その質問は彼に対しては少しばかりおかしいことに気がついた。
「悪い」
首筋から肩口を濡らすダンテの温かい涙を感じながらメアはそっと汗でもつれた銀髪を指で梳く。
「大丈夫だよ、我慢しなくていいから」
小さな嗚咽を聞きながらよしよしと丸い後頭部を撫でると、背中に腕が回ってきてぎゅっと抱きしめられる。
耳元で聞こえたダンテの絞り出すような声にああ、とメアは心の中だけで虚ろに呟いた。
やっぱり彼は深く傷ついていたんだ。
「もうどこにも行かないでくれ」
ごめんね、と言いかけた言葉を飲み込んでメアは静かに答える。
「うん、もうどこにも行かないよ」






ベッドで眠っているダンテの顔を横目に、メアは月明かりを頼りに窓辺で書き物をしていた。窓枠に腰掛けてレースのカーテンに包まりながら膝の上で真新しいノートを広げる。書き写したレッド・ラムの幹部たちの情報と、やるべき事のメモ書きだった。ダンテも手伝ってくれるって言ってくれたから、当初思っていたよりも簡単なミッションに思えてきたな、とメアは鉛筆の頭を口にくわえた。
どこかで吠えている犬の遠吠えを聞きながら空をぼんやりと見ていると、もぞりと動く音がした。振り返ると眠たそうなダンテと目が合う。
「……寝ないのか」
「眠れなくて」
昼間あれだけベッドで"暴れ回った"のに妙に目が冴えていた。起き出してきたダンテが目を擦りながらメアの頭をそっと撫でる。
「何してんの」
「マフィア退治の計画を練ってました」
ノートを持ち上げて見せると、静かに頷いてあくびを噛み殺したダンテがメアの隣に腰掛ける。
「あんま根詰めるなよ。メアが全部背負う必要はないんだ」
「……そうだね」
背負いたくとも背負いきれないだろうとも思っていた。キル・デビルがどのくらいの範囲と速度で広まっているのかは見当もつかない。消したくても消しきれない火が出てしまうんだろう。
がり、と鉛筆の頭をかじって嘆息を飲み込むとそういえば、とダンテが声を上げた。
「店の名前、思いついたんだ」
夢の中で、とダンテがつけ足す。
「俺とメアでネオンサインをかけてる夢を見た」
「不思議だね」
なんて言うの?と尋ねるとダンテはそっとメアの耳元に口を寄せて囁いた。
「        」
その店名にメアはふわりと笑う。
「素敵な名前」
「よかった」
ダンテは安心したように笑ってメアの頬を手繰り寄せる。存在を確かめるような長いキスだった。まだ寝ぼけてるんだろうな、と思った。メアはノートをベッドサイドに置いて窓を閉めると、ダンテの手を取ってシーツに潜り込んだ。
「私ももう寝るよ」
「そうか」
月明かりの下でキラキラと光る銀髪をゆっくりと撫でると、その言葉に安心したのかダンテはそっと目を閉じた。
白皙の肌に落ちた長い睫毛の影を見つめながら、メアもゆるゆると目蓋を下ろす。
「おやすみ、ダンテ」

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