53.さようなら江戸
私は、女中の仕事が終わり自室にて手紙を書く。私がいなくなったあと、きっと心配するだろう近藤さんや山崎さん宛に。あとは土方さんに沖田さん···あー、まって、1人1人に書いていたらキリがない!全体的に、全体へ書こう。


悩んでいたら日付けが変わっていて、私は急いでお風呂に入った。ここの広いお風呂に入るのは最後って考えるとついつい長風呂になってしまう。気持ちいいし···。


「ふー、いい湯でしたなぁー」


誰もいない廊下···私はオッサンのような感想を呟きながら自室へと足を運ぶ。


私の自室前に人、1人分の人影があった。


「沖田さん···?」


仕事帰りなのだろうか、沖田さんは隊服をまだ着用していて、私の自室前の縁側に腰を降ろし、コーラを飲んでいる。私の自室前というか、隣沖田さんの部屋だから、別におかしくはないんだけど···、ちょ、おい待て、それ私のコーラ!


「風呂上がりかィ?」

「まぁ···ってか私のコーラ」

「おめェのモンは俺のモンでィ」

「何処のジャイアンですか、あんた」


沖田さんは平然と私のコーラ飲み、残りを私に渡してきた。いや、残ってねぇ、空だ。ただのゴミだ。死ね。


私は沖田さんに座れと言われ、沖田さんの隣に腰を降ろす。


実は沖田さんのことを好きと自覚してから少し沖田さんのことを避けていた。だから名前を書いた私のコーラが飲まれ、ムカついてはいるのだが、久しぶりにこうやって距離が近いとムカつくよりもドキドキが強くて心臓がうるさい。


「なんかあったか?最近」

「なにもないですよ」


乾かしていない髪から水滴が私の太腿に落ちる。


「へぇー」


疑うような瞳。
苦手···よりも今は疑うような瞳の奥に以前感じたことあるモノを感じとった。雄の目···


「···っ!」

「なんでィ···」

「ち、近い···」


人半分位の距離がゼロになり、私は狼狽える。


「髪、ちゃんと乾かしなせェ···」



沖田さんが私の方にかかったタオルで私の髪の毛を無造作に拭く。


「ちょ···ッん!」


え?は?
タオルで一瞬目の前が隠れたかと思っていたら唇に柔らかい何か···。いや、沖田さんの唇···


「なる···」


唇が離れ、切なそうに名前を呼ばれる···。


ダメ、沖田さん。
その言葉言わないで···。


「好きでィ···」

「···ンん!···ッあ」


熱っぽい視線でなんとなく言われることは察してはいたけど、沖田さん私のこと好きなの?それよりもまたキスされた。今度は触れるだけのキスじゃない。私の舌に絡まるのはきっと沖田さんのモノ。


「··ッ····ふっ···ンん···っまって!」


私は力が抜けそうになる前に沖田さんの胸板を押して体を離す。


「突然、何するんですか!」


私の顔はきっと顔が真っ赤であろう。


「何ってキスでさァ···俺ァ、おめェが好きでィ···だから、何処にもいくな」

「···!」



なんで、今。なんで···今そんなこと言うの···。


決心決めてたのに、バカ沖田!


「お前の答えはどうなんでィ」

「私は···私は、嫌いです···バカ!」


私は俯きながらそう答え、沖田さんを見ずに自室に入った。



嫌いじゃない、寧ろ好きだ。
でも私は元の世界へ戻るのだ。だからこんな感情本当はいらなかったんだ。あと沖田さんが私のこと好きなのもきっと気の迷い。


だって私だよ!?ちんちくりんだし町人Bだし、可愛くないし···ってかなんで沖田さんの隣の部屋なんだ、マジで!土方さんのバカヤロー!


私はその日一睡もすることができなかった。沖田さんのせいで。



「あー朝日が眩しい···」


私は朝稽古でみんなが道場に集まっているなか、屯所を出た。門番も丁度いない時間帯。ここに住んでて交代の日時間帯とか把握済みである。


「ありがとうございました···」


私は真選組屯所に一礼してから万事屋へむかった。



ピンポーン


「なるさん、おはようございます」

「おはよー。今日はよろしくお願いします」


私は万事屋3人と、江戸から少し離れた田舎町に来ていた。田んぼが一面に広がる一本道。


「よし、ここでいっか」


まだ苗が植えていない水だけを張っただけの水田。



「銀ちゃん、神楽、新八くん。本当にありがとう。出会えてよかった。それじゃまたね」


私は3人に背中を押され、田んぼに落ちた。その時の空があの人同じ色だった。


これで帰れますよーに。


私は落ちた瞬間ただそれだけを願って目を瞑った。


沖田さん···ごめんなさい。





さようなら江戸
(ここって···)

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